ドリプリにハマっていて、推しがいるのに彼氏ができた七海を正直すごいなって思った事もあった。

大体、リアルで彼氏ができてしまうと担当を降りる、いわゆる『担降り』が起きる事は珍しくはない。

でも七海は彼氏ができてもドリプリへの愛は変わらずだった。

今思えば担降りしなかったのは、私に付き合ってくれていたためなのか、幼馴染である青柳さんを応援するためだったのか、二つのうちのどちらかだったんじゃないかな。

おそらく後者だとは思うけれど、そんな事しなくても青柳さんは七海の幸せを願ってたと思うんだけどな……。

もう一度ため息をついて、私は洗面所へと入った。



いつもより一時間早く家を出た。

朝食も兼ねて、駅の近くにあるコーヒーショップに入った。

モーニングセットと紅茶を注文し、席に座る。

ここに来るのは初めてではない。

家で作業をするよりもここで作業をした方が捗る時もある。

それと店は二階にあり、窓際に座っても人の目があまり気になる事はない。

行き交う人を観察しながら、次の企画を練る事もあるので、このコーヒーショップは私にとって至福の時間を過ごせる最適な場所でもある。

お気に入りのいつもの窓際の端に座り、スマホをタップする。

めぼしい情報がないか、呟き情報アプリを開いて探してみる。

出版社を多くフォローしているせいか、新刊情報ばかり流れてくる。

私の担当した記事が掲載されている女性誌の発売ももうすぐだ。

『恋するスイーツ特集』という見出しを見つけて指を止める。

出版元はスノーライツ出版で、七海が担当した企画だと思う。

企画のタイトルが『恋するスイーツ』だったので、よく覚えている。


「このチェリータルト、甘酸っぱくて美味しいね」

「本当!毎日食べても飽きないかも」


七海が企画会議に出すために一緒にスイーツ巡りをしたカフェで出会った、甘酸っぱいチェリータルトを食べて二人で顔を見合わせて感動したのが昨日の事のようだ。


「……決めた!」

「え、何?!」


ひと口ひと口、幸せを噛みしめるようにチェリーパイを食べていた七海が急に大きな声をあげたので、私はビクッと肩を震わせた。

聞いた私に応えるように、七海が笑顔でチェリーパイを指さした。


「今度の企画名、恋するスイーツってどう?」

「……私には絶対に思いつかないネーミング」