青柳さんと呼ぶのは、自分に制御をかける呪文のような物。

燈真君……だなんて、親し気に呼び始めたら、距離感がわからなくなって、そのうち恋愛対象として意識してしまうかもしれない。

何としてでもそれだけは回避したいのだ。

燈真君のファンとしても、七海の幼馴染として接するにしても。

だから、七海が青柳燈真君は幼馴染だって私に話してこなかった事に今、心から感謝している。


『……それって、俺を恋愛対象で見る事になるからって事?』


ストレートに質問されるとは思わなかった。

思わぬ攻撃に防御しきれなくて、ダメージを食らってしまう。


「な、なに言ってるんですかっ!そんなの、あるわけないじゃないですかっ!……明日、早いので失礼します!」


図星を突いたと思われただろう。

私は青柳さんの返事も聞かずに、大人としてはかなり失礼な態度で通話を終了した。

スマホを置き、私はベッドにダイブする。


「……自分で言わないでよ。推しに言われたら、いくら頭で理解してても、心は動いちゃうって……」


鼓動がかなりうるさく聞こえてくる。

今はそんな事に気を取られている場合じゃないのに。

起き上がり、邪念を振り払うように頭を思いっきり振って、明日の準備をして再びベッドに横になった。




あまり眠れなかった。

スマホのアラームよりずっと早い時間に起きてしまい、深いため息をつく。

昨日の青柳さんの言葉を引きずっているせいなのだろうか。

こんな事は初めてだ。

仕事の資料を読んでいて眠れなかった事すらないのに。


「……仕事中に眠くなったらどうしよう」


ポツリとつぶやき、深いため息をついてからベッドから抜け出る。

テーブルの上に出しっぱなしにしてあった雑誌が目に入り、ドキッとして目をそらしてしまった。

表紙はドリプリで、青柳燈真君と目が合ったような気がしたからだ。

……小学生のような反応に、情けなくなってくる。

中学や高校の時はそれなりに人を好きになったし、彼氏がいた事もあった。

だけど、大学進学で東京に出てきてからは、恋愛とは縁遠いものになっている状況だ。