『ごめん、遅くなって。今日の反省会がてら夕飯食べに出かけてた』


青柳さんから連絡がきたのは、22時を少し過ぎた頃だった。

ネット上ではドリプリの北海道公演に参戦した人の投稿が飛び交っていて、どの人も「最高だった」という反応ばかりで、とりあえずホッとした。

もちろん、青柳燈真君はいつだってどんな時だって最高のパフォーマンスを披露してくれるってわかってはいたけれど。


「……すみません。お忙しいのに」

『大丈夫。……けど、相変わらずしゃべり方硬いよね。本当に、俺推しなの?』

「私が推してるのは、青柳燈真君です」

『今話してるのも青柳燈真なんだけど』

「違います。あなたは青柳さんです」

『……よくわかんない理論だな』


電話の向こうで青柳さんがフッと笑った。

私が見ていたのはアイドルの青柳燈真君であったから、プライベートの部分はやはり別人のような感覚しかなくて。

……出会ってからそんなに日がたってなくて、関係性が薄いせいもあるのだろう。


『で、昼間の件だけど……あ、その前に。ちゃんとプロ意識を持って仕事してきたんで』

「参戦した人のコメントをネットで見ました。最高のパフォーマンスをされたそうで」

『何があっても、仕事はちゃんとこなさないとね。……で、昼間の件だけど。七海をメンバーに紹介した事は一度もないし、紹介どころか七海の話をした事もないよ』


青柳さんは七海を紹介するどころか、メンバーに話をした事もない……。

私はその言葉をノートに記録する。


『七海はちゃんと、推しとリアルを分けてくれてた。だから俺に紹介してとか楽屋入れてとか、一度も言った事はない。証明したければメンバーに話を聞きに来てもいい。その機会をセッティングするから。……もちろんそれが、身内の証言は証拠にならないって思うのなら、証明しようはないけど』

「……今はあなたの言葉を信じます。仮説は仮説であって、私はただ可能性を潰したかっただけなので」


私がそう告げると、電話の向こうで青柳さんがため息をつく。