青柳燈真というアイドルは、いつだって何も言い訳にはしてこなかった。

以前、ライブ中に骨折をした時も一切表情に出す事も態度に出る事もなく、ライブをやり切った。

後日、骨折の記事が出た時にファンから驚きの声が上がったほど、彼のパフォーマンスは衰える事無く最高の物だった。

七海が亡くなった事を知っても、ライブでしっかりアイドルをやっている。

だから、私との電話で北海道公演初日をうわの空で終わらせるわけがない。

青柳さんは電話の向こうで、フッと笑った。


『当たり前。柚乃ちゃんの推しのアイドルはちゃんとプロ意識を持ってやってるから、安心してよ』


そう言うと、彼は電話を切った。

通話が終了し、スマホの画面がいつもの画面に戻る。

ライブに集中してくれる事はありがたいけれど、仮説はやはり仮説でしかなかった。

青柳さんは違うって言っていた。

それに対する説明もある……と。

違うとわかって少しホッとしている自分もいるが、そうなると結局また振り出しに戻る事になる。


「……はあ」


思わずため息が出てしまった。

七海の事なら何でも知ってるって思っていたのに、知らなかった……というより、何でもう少し踏み込まなかったんだろうっていう後悔が押し寄せている。

しかもいなくなってから、七海の領域に土足で踏み込んでいるような気がして、心苦しくなってきたのもある。

……とはいえ、今更そんな事を考えだしても何もならない。

足を止めるわけにいかないし、とにかく今は七海の痕跡を見つけ出すしかない。

とりあえず今夜、青柳さんと連絡を取ってから今後の事は考えよう。


『今夜、21時以降なら大丈夫です。怪我の無いよう頑張ってください』


青柳さんにメッセージを送り、私はラウンジを後にした。