惚気は多かったけれど、私なんかよりもずっと現実を見ていた子だった。

自ら命を絶つ動機としては成立するけれど、さすがに七海に限って既婚者を見抜けないはずは……ないと思いたい。


「とりあえず、次にいくね。仮説二つ目。彼氏を知る共通の友だちがいて、その子の紹介とかで付き合ったけれど、彼氏がその子と七海ちゃんを二股かけてて、向こうを選んだ」


さっきの既婚者パターンと違って、何だか現実味のある仮設で少し怖い。

確かに、友だちの紹介で知り合って付き合い始めたのかもしれない。


「今度、七海の実家に行って、大学以前に仲が良かった友だちの事を聞いてみますね」

「大学以前なんだ?」

「はい。大学だったら私が知らないはずないと思うので……」


同じ大学に通って、七海と毎日ほぼ一緒に過ごしていた私が知らないはずがない……。

合コンに行ったって話なんて聞いた事がないし、あの頃はとにかく異性と言えば、ドリプリだったし。


「二つ目の仮説の方が可能性がありそうだね。……三つ目、おまけとして聞いてみる?」

「綾音先輩、何でそんなにポンポン出てくるんですか……」

「私、入社した時は書籍コンテンツ編集部に配属されてたから、そういうネタ的な物は浮かんでしまうというか……ごめん。不謹慎だよね」

「いえ。……私じゃ思いつかなかったので、ありがたいです。可能性がある物を当たって、突き詰めていくので、教えてください」

「物凄く現実的じゃない仮説ね。……七海ちゃんには身近に推している人がいた。それがホストでも地下アイドルでもコンセプトカフェでも……とりあえず推してる人。で、七海ちゃんは本気だったけれど推しは営業だった。かなりお金をつぎ込んだのに……っていう、割と今、10代でも問題になってる事だけど、さすがに七海ちゃんはないわよね」

「ないですね。七海はドリプリ推しで……」

「ああー、ドリプリ推しかー。じゃあ、三つ目の仮説はやっぱりボツだね。ドリプリなんて柚乃と一緒だ」


綾音先輩はそう言って、カップに口を付けた。

……ちょっと待って。

あながち三つ目の仮説は成立するかもしれない。