おそるおそる顔を上げれば、綾音先輩も涙ぐんでいた。


「……私だったら耐えられない。なのに、柚乃はずっと黙って毎日過ごしてたとか、胸が痛い」

「そんな……すみません。表に出ないように頑張ったんですけど、やっぱり隠しきれてなかったようで、逆にご迷惑をおかけして本当に……」

「だから、いいんだって。柚乃が謝る必要なんかないんだから。……むしろ、ミスのないよう気を付けながらいつも以上にきっちり仕事をしてくれて心から感謝してる。辛かったでしょ……?」

「嘆いていても、七海が戻ってくるわけじゃないですし。七海の事でショックを受けて仕事ができなかったっていう言い訳だけはしたくなかったんです」

「……柚乃にそんなにいい友だちがいたんだね」

「すごくすごくもったいないくらいの最高の友だちでした。……だから、何があったのか、知りたくて」

「……謎の婚約者か。ずっと裏切られてた……っていうのは、そのプロポーズしてきた男にって事だよね?」

「そうだと思うんですけど……」


綾音先輩が、うーんと考え込むのを見ながら私はため息をついた。

やっぱり、七海が付き合っていた相手を探し出さないと謎は謎のままな気がする。

でも、どうやってその男性を探せばいいのだろう。

ひとり暮らしをしていた七海の家にも、実家の部屋にもその男性の写真はもちろん、その人に関連する物は一切見つかっていない。

頼みの綱だった七海のスマートフォンも浴槽で水没して壊れてしまった。


「七海ちゃんはどうやってその人とお付き合いする事になったの?」

「……ごめんなさい。それが……あんまりよく覚えてないんですよ」


綾音先輩の問いかけに私は頭を抱えながら答える。

大学を卒業して社会人になった後、しばらくは会っても仕事の話ばかりだった。

覚える事が多すぎて大変だけど、やりがいがあって楽しさもあるねって言い合ってたから。

こんな調子だと彼氏できるのいつだろうねって笑い合ってたし。


「普通、親友に彼氏できたらどんな人か興味わかない?写真見せてって言わなかったの?」

「なんか、そういうのはこっちから要求するのは、ずうずうしいかなって思っちゃって。見せたくなったら見せてくれるかなって思ってて……」

「……柚乃らしいね」


綾音先輩は盛大にため息をついた。