七海が住んでいた家をおじさんと片づけた際、自殺の動機に繋がるような物は何も見つからなかった。

もちろん、この部屋に彼氏が来ていたような痕跡も無い。

残念ながら、恋人との写真さえも一枚もなく、水没したスマホの中に入っていたのか、それともそもそも『彼氏』という存在が最初からいなかったのかはわからない。

彼氏がいるという見栄を張ったのかって思ったけれど、私にそんな事をする意味は全くない。

彼の事を話す七海は本当に幸せそうだったから、いた事は事実だと思う。

しかも、プロポーズまでされたというのだから。

けれど、どこを探しても彼の存在を示す物は一切なく、手掛かりは何ひとつない。


おじさんは忙しい合間を縫って、七海がひとり暮らしをしていた部屋を引き払い、荷物を実家に引き上げてきた。

更に七海の勤めていた出版社に出向いて、田辺さんと一緒に私物を整理して持ち帰ってきた。

職場に置いていた私物は思っていた以上に少なかった。

私と違って、七海はあまり職場に私物を持ち込んでいなかったようだ。

おじさんやおばさんと一緒に段ボールのから持ち帰った物を取り出して選別する。