綾音先輩がついていてくれた時は、かなり失敗してきたから、話が辰巳さんにもいったんだろうけれど。


「あー、いえ……」

「ん?顔色悪くないか?」

「えっ?辰巳さんまでそんな事言います?」

「何だ。すでに誰かに言われたんだ?」

「綾音先輩にも……」


素直に答えると、辰巳さんはおかしそうに笑いだす。


「もしかして、顔色悪いの自覚ないのに綾音に指摘されて編集部追い出された?」

「顔色悪いって、元からこんな色じゃないですか?私は」

「そんな事ないよ。いつもは健康的でもっと血色いいよ」


いつもは健康的で血色いい。

そう言われてもあまりピンとこないけど。


「……ただ、ここ一か月ほどはあまり良くないかな。ただミスもなく仕事こなすし、健康上は問題ないのかなって思ってたから声はかけなかったけど……」


一か月ほど。

顔色が悪いのは七海が亡くなった後からなんだ。

鏡を見ても自分で全く気が付いてなかったのは、見慣れた顔だからだろうか。

自分で自分の変化に気が付かないほど、七海の死はショックだったという事だろう。


「もしかして、編集部で嫌がらせされてるとか?」

「いえっ!そんな事は絶対にないです。皆さん、ミスばかりの私に本当に親切で、私はもっともっと頑張らなきゃって思ってます」

「そっか。そう言ってくれると同じ編集部にいる俺も嬉しいよ。……あんまり自分を追い込んで無理するなよ?何かあればいつでも声かけて」

「ありがとうございます」


それじゃ、と言って辰巳さんは手を挙げてエレベーターホールの方へ歩いていく。

私は頭を下げて、その姿を見送った。

ミスが多い困った部下にもこんな風に優しく声をかけてくれるところが、女子社員からの人気の理由なんだろうな。

イケメンだけじゃなくて、誰のフォローにも回ってくれる気遣いができる人って、なかなかいないよね。


「……私もしっかり頑張らなくちゃな」


教育係が外れてひとり立ちしたというのに、こんな風に心配されていたら駄目だ。

私は自分自身に言い聞かせて、ラウンジへと向かった。