そんな事は、青柳さんの方がよく知っているのだろうけれど。


「幼馴染の話は……いつも、楽しそうにしてくれたの。そんな素敵な人がそばにいるのに、七海は別の人と結婚するんだって不思議に思ったんだよね」

「七海は俺を異性として見てなかったし、俺も七海を妹のように見てたからな」


七海も言ってたけど、お互いがそう思ってたんだ。


「……七海は幼馴染の事を優良物件って言ってたんだけどな」

「おい、物件扱いすんな」

「あ、すみません」


ポツリと独り言を言ったつもりだったのに、聞こえてしまっていた。

言葉の端々は横柄だけど、その奥に優しさを感じ取る事ができる。

ああ、やっぱりこの人は七海の幼馴染なんだなって、納得してしまったほど。

……そういえば、七海は私と幼馴染が気が合うって言ってたっけ。

あの時は、七海の幼馴染だし、普通に友だちになれそうって思ったけど……絶対に無理だ。

この人はお友達になっていい人じゃない。


「……七海と最後に会ったのは?」


青柳さんから質問が飛んできて、ドキッとする。


「……七海が亡くなる前日に報告したい事があるって言われて、一緒に飲みに行って、そこで付き合ってる彼にプロポーズされて結婚するっていう報告を受けたの。その話をした時の七海は今までで一番幸せそうな顔だった。……青柳さんも知ってるよね?七海に三年ほど付き合ってる彼がいた事」

「知ってたよ。でも、どこの誰かまでは知らなかった。おじさんもおばさんも彼がいた事は知らなかったみたいだけど、柚乃ちゃんもどこの誰かまでは知らないって……?」

「申し訳ないけど、知らないの。……そっか、青柳さんも知らないか」

「……ちなみに、俺が最後に会ったのは正月過ぎてから。……七海の葬儀は丁度、ツアー中で地方にいて戻ってこれなくて」


青柳さんの声のトーンが少しずつ落ちていく。

芸能人は親の死に目にも会えないという話はよく聞くし、親ではなく幼馴染じゃ行きたくても行けなかっただろう。

やりきれない気持ちがこみあげてきて、私は窓の外に目をやった。