……あれ、私、この人にちゃんと自己紹介したっけ?

色々な情報が一気に流れ込んできたから、ちゃんと名乗っていないような気がする。


「……改めて自己紹介しますが、黒澤柚乃です。七海と大学が一緒で、初対面の時からすごく気が合って、仲良くさせてもらってました。ただ、青柳さんの事は知らなかったのですが、幼なじみがいるという話は聞いてました」

「ガッツリ敬語」

「仕方ないじゃないですか。青柳さんは七海から私の話を聞いていたかもしれないですけど、私はあなたの話は一切聞いていなかったんで、初対面なのにタメ口なんか……」

「……慣れてってよ。こっちは親しみ感じてたのに、すげー壁作られてるみたいで嫌なんだけど?」

「……努力はします」


そんな事言われても、こっちはいきなり自分の推しが親友の幼馴染でしたって言われて、パニックになってるんだから。

ため息をついた後、再び私は口を開く。

彼が私に話を聞きたいように、私も彼に聞きたい事はたくさんある。

おじさんもおばさんも……そして、私も知らない事を知っていそうな気がしたから。


「青柳さん」

「燈真でいいよ、柚乃ちゃん」

「……私、七海とは違う出版社勤務ですけど、一応、ファッション誌の部署にいるんです。もしかしたら今後、ドリプリの特集を担当する事になるかもしれないので、そこまで親し気な呼び方は……」

「真面目すぎない?七海から聞いていた印象と全く違うんだけど」

「友だちと初対面じゃ普通だと思いますけど」

「うーん、一理あるかも。じゃあ、友だちに昇格するまで頑張るかー」


この人、本気で自分を守る気あるのだろうか。

……七海の幼馴染って、優しくてお人好しで涙もろいところあるけど、何事にも一生懸命っていう人じゃなかったっけ?

青柳さんからは微塵も感じないんですけど。


「……話を戻しますけど、青柳さんは七海とどのくらいの頻度でやり取りしてました?」

「七海とは週に何度かメッセージでやり取りしてたよ。俺が実家に帰ってくるタイミングで七海も実家に帰ってきたりして、その時に会ってたかな。あー、この前の東京公演のチケットも俺が七海にあげたんだよ」

「そうだったんですか?!……すみません。幼馴染にあげたのに、彼女よりテンション高くライブに参戦しちゃいました」


私が言うと、アハハと青柳さんは声をたてて笑った。