七海が私を信用していなかったから話せなかった……とは思いたくはない。

でも、話せなかったのは七海自身の理由じゃなくて、青柳さんに迷惑がかかる事を心配していたからだと思う。

私自身がそう理由付けたいだけかもしれないけれど……七海はいつだって、自分じゃなくて相手の気持ちを気にしていたから。


「謝らないでください。七海が優しい子だって改めてわかったので、良かったです。……お邪魔しました」


私はそう言って頭を下げ、桐山家を後にする。

ガレージに止まっていた車の後部座席に素早く乗り込んだ私。

すでに準備されていた毛布に包まり、周りから見えないように姿勢を低くする。


「ありがとうございます。柚乃ちゃんが賢い子で助かりました」

「……あの、さっきからその、柚乃ちゃんって……」


さすがに何回も推しから柚乃ちゃんって言われると、恥ずかしいというか落ち着かないというか……。

シートベルトを着用し、カチッと音が鳴ると同時にゆっくりと車が動き出した。


「だって、七海と話す時はいつも柚乃ちゃんって呼んでたんで……嫌でした?」

「そうじゃないですけど、なんかペースが狂うっていうか、推しにそう呼ばれるのは慣れません」


そう言うと、青柳さんはクスッと笑った。


「じゃあ、せっかくなんで敬語辞めません?俺もタメ口で話すし、燈真って呼んでくれていいから。同い年でしょ?」

「同い年ですけど、さすがにタメ口というのはちょっと……」

「いいじゃん。七海からめちゃくちゃ話を聞いてたから、あんまり初めて会ったっていう感覚じゃないし、七海の友だちは俺の友だちっていう事で、徐々に慣れていってよ」


どういう理論ですか。

そういう風に人の懐に飛び込むのが上手いのは、国民的アイドルだからなのかな……。

とりあえず、深く考えるのはやめよう。


「……で、本題なんだけど。おじさんとおばさんからは、七海の話を聞いたよ。でも、彼女の一番近くにいた、親友のあなたから七海の話を聞きたくて。……最近の七海の話を俺に直接話してもらえない?」


最近の七海の話って……青柳さんはどのくらいのペースで七海と連絡を取り合っていたのだろう?

毛布に包まり、小さく縮こまりながら流れる景色を眺める。