「本当に急で申し訳ございません。後日、職場の方に荷物を取りに伺いますので」

「いえ……こちらこそ、何と言葉をかけていいのか……。本当に残念でなりません。力になれる事がありましたらいつでもご連絡ください。……黒澤さんも」


田辺さんはそう言って、私に名刺を差し出した。

七海が自分で命を絶ったという事は伏せてあるため、田辺さんも七海が自殺したという事は知らず、病死したと思っている。

名刺を受け取り、私も頭を下げる。


「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

「本日はお忙しい中、本当にありがとうございました」


七海の両親が揃って頭を下げると、田辺さんは深々とお辞儀をして会場を後にする。

遠ざかる田辺さんの後ろ姿を見ながら、私は深いため息をついた。


「柚乃ちゃん、大丈夫?本当にごめんなさいね。七海のために……」

「そんな……私こそ、無理言って同席させていただいてありがとうございます。おばさんは大丈夫ですか?後は私がやるので休んでて下さい」

「ううん。柚乃ちゃんこそ休んでていいのよ?」


優しい事ばかり言うおばさんに私は首を横に振った。

七海が亡くなった日、おばさんはショックで倒れてしまって、おじさんが全ての対応に追われた。

今だって人前で気丈に振舞える程、回復には至っていない。

どうして七海が亡くならなければならなかったのか、おじさんだけでなくおばさんも理由はわからないから、少しでも自分たちで動かなければともがき苦しんでいる状態だった。



田辺さん以外、この葬儀に現れる人はおらず、葬儀は滞りなく終了した。

七海の両親と私の三人だけのひっそりとした葬儀は当たり前だけど静まり返っていて、不謹慎ながらどこか不気味さを感じずにはいられなかった。

骨壺を大事そうに抱えているおばさんを見て、胸が痛かった。

親よりも先に旅立った七海。

七海が両親とどれだけ仲が良かったか知っているから、七海が両親を悲しませるような事をするはずがないって、ずっと自分に言い聞かせている。

両親を悲しませるよりも生きる事の方が苦痛だった物は、一体何だったのか?