そんな行動力、私なんかのために発揮しないで欲しい。
それに……暗くなったとはいえ、まだ多くの人が行き交う時間帯だし、国民的アイドルがこんなところで異性と一緒にいちゃいけない。
「何度言ったらわかるんですか?あなたは国民的アイドルなんですよ?何の関係もないとはいえ、こんな風に異性と二人でいたら、誤解されます。一度誤解されたら、身の潔白を証明するのに大変なんですから、自覚してください」
「……久しぶりに会って、第一声がお説教とは。相変わらずだね、柚乃ちゃん」
ハハッと苦笑する燈真君を見て、私は唇を嚙みしめた。
一年前、全てを捨ててここへ来たというのに、どうしてあなたは私の痕跡見つけて現れるの?
もしかして、息の根を止めに来た?
「……迎えに来たんだ。柚乃ちゃんを」
迎えに……?そんなはずはない。
私はクルッと背を向ける。
「あなたはここにいるべき人じゃない」
「じゃあ、一緒に帰ろう。東京に」
「帰る?私の帰る場所はここ。今までもこれからもずっと。あなたとは世界が違うんだよ」
「違うわけない。俺の世界から逃げ出したのは柚乃ちゃんの方。元々俺の世界にいた奴を迎えに来て、何が悪い?」
そっと肩を掴まれ、彼の方に向かされる。
「……俺は柚乃ちゃんを復讐相手だって、勘違いしていた。七海の親友だと名乗るのは柚乃ちゃんしかいなかったから。だから、傷つけて捨ててやろうって思った。でも一緒にいるうちに俺の方が柚乃ちゃんに惹かれていって、いつの間にか好きになってたんだよ。偽りなんかじゃなくて、本当に。……こんな人が七海を傷つけるはずがないって。本当の事を聞こうとしたあの日、柚乃ちゃんは俺の前から姿を消した。……見たんだろ、あの部屋のコルクボードを」
「……うん」
「本当の事、柚乃ちゃんがいなくなった後に全部知った。七海を自殺に追い込んだあの二人には天罰下ったから。二度と幸せにはなれないと思う」
人の幸せを奪えば、それなりの罰が下る。
そんなの当たり前だけど。
七海のすべてを奪ったのだから、同情の余地なんか一切ない。
「柚乃ちゃんには謝っても許してもらえない事をしたと思ってる。けれど、俺は柚乃ちゃんのいない世界で生きていくなんて無理だ。だから、俺と一緒に同じ世界で生きて欲しい」
これ以上の幸せを望むべきではないとずっと自分に言い聞かせてきた。
今度は偽りじゃなく、本物だって……希望を持っていいの?
「……前に七海に言われた事がある。燈真にお似合いの物件がいるって。自分の親友で、何事にも一生懸命でどんな時もあきらめなくて、人の事なのに自分の事のように泣いちゃうようなお人好しで、一緒にいると守ってあげないとって思うような子。……柚乃ちゃんの事だって、わかったんだ」
「物件って……」
「俺の事も物件扱いしたんだから、おあいこだろ?……七海の最期のメッセージにあえて『親友』というワードが使われていたのは、俺が柚乃ちゃんに接触する事を予測していたんだと思う。接触して自分の目でどんな子か見極めて……俺が本気になるって七海にはきっとわかってたんだ。決して七海は柚乃ちゃんを傷つけるつもりじゃなかった。複雑すぎてすれ違ったけど、七海は柚乃ちゃんの幸せを願ってたはずだ。俺が散々傷つけたから、七海に怒られるかもしれないけどな。怒られる覚悟はできてる。すべてが終わった今、約束した通り、柚乃ちゃんの気持ちを聞かせて欲しい」
『七海の事が全て明かされた後、その時にまだ気持ちが変わっていなかったら、返事をしてもいいですか?』
あの時、確かにそう言ったけれど、まさかこんな日がくるって思わなかったから……。
「……場所を変えてもいい?」
「いいけど、どこに行く?星がたくさん見える展望台?夜景が見える高台の公園?」
「それ、私が特集したプロポーズお勧めスポットで取り上げた場所じゃ……?」
「それくらい期待をしているって事だから」
そう言って燈真君は私の手を取って笑った。
それは、誰かに見せるための笑顔でもなく、私に向けていた偽りの笑顔でもなく……いつか七海と燈真君が二人で撮った時の写真のように心の底からの笑顔だった。
幸せは終わらなかった。
きっとこの幸せはこの先もずっとずっと続いていく。
燈真君と私が同じ方向を見ている限り。
これが、本当のハッピーエンド。
幸せの終わりではなく、幸せで終わる……。
それに……暗くなったとはいえ、まだ多くの人が行き交う時間帯だし、国民的アイドルがこんなところで異性と一緒にいちゃいけない。
「何度言ったらわかるんですか?あなたは国民的アイドルなんですよ?何の関係もないとはいえ、こんな風に異性と二人でいたら、誤解されます。一度誤解されたら、身の潔白を証明するのに大変なんですから、自覚してください」
「……久しぶりに会って、第一声がお説教とは。相変わらずだね、柚乃ちゃん」
ハハッと苦笑する燈真君を見て、私は唇を嚙みしめた。
一年前、全てを捨ててここへ来たというのに、どうしてあなたは私の痕跡見つけて現れるの?
もしかして、息の根を止めに来た?
「……迎えに来たんだ。柚乃ちゃんを」
迎えに……?そんなはずはない。
私はクルッと背を向ける。
「あなたはここにいるべき人じゃない」
「じゃあ、一緒に帰ろう。東京に」
「帰る?私の帰る場所はここ。今までもこれからもずっと。あなたとは世界が違うんだよ」
「違うわけない。俺の世界から逃げ出したのは柚乃ちゃんの方。元々俺の世界にいた奴を迎えに来て、何が悪い?」
そっと肩を掴まれ、彼の方に向かされる。
「……俺は柚乃ちゃんを復讐相手だって、勘違いしていた。七海の親友だと名乗るのは柚乃ちゃんしかいなかったから。だから、傷つけて捨ててやろうって思った。でも一緒にいるうちに俺の方が柚乃ちゃんに惹かれていって、いつの間にか好きになってたんだよ。偽りなんかじゃなくて、本当に。……こんな人が七海を傷つけるはずがないって。本当の事を聞こうとしたあの日、柚乃ちゃんは俺の前から姿を消した。……見たんだろ、あの部屋のコルクボードを」
「……うん」
「本当の事、柚乃ちゃんがいなくなった後に全部知った。七海を自殺に追い込んだあの二人には天罰下ったから。二度と幸せにはなれないと思う」
人の幸せを奪えば、それなりの罰が下る。
そんなの当たり前だけど。
七海のすべてを奪ったのだから、同情の余地なんか一切ない。
「柚乃ちゃんには謝っても許してもらえない事をしたと思ってる。けれど、俺は柚乃ちゃんのいない世界で生きていくなんて無理だ。だから、俺と一緒に同じ世界で生きて欲しい」
これ以上の幸せを望むべきではないとずっと自分に言い聞かせてきた。
今度は偽りじゃなく、本物だって……希望を持っていいの?
「……前に七海に言われた事がある。燈真にお似合いの物件がいるって。自分の親友で、何事にも一生懸命でどんな時もあきらめなくて、人の事なのに自分の事のように泣いちゃうようなお人好しで、一緒にいると守ってあげないとって思うような子。……柚乃ちゃんの事だって、わかったんだ」
「物件って……」
「俺の事も物件扱いしたんだから、おあいこだろ?……七海の最期のメッセージにあえて『親友』というワードが使われていたのは、俺が柚乃ちゃんに接触する事を予測していたんだと思う。接触して自分の目でどんな子か見極めて……俺が本気になるって七海にはきっとわかってたんだ。決して七海は柚乃ちゃんを傷つけるつもりじゃなかった。複雑すぎてすれ違ったけど、七海は柚乃ちゃんの幸せを願ってたはずだ。俺が散々傷つけたから、七海に怒られるかもしれないけどな。怒られる覚悟はできてる。すべてが終わった今、約束した通り、柚乃ちゃんの気持ちを聞かせて欲しい」
『七海の事が全て明かされた後、その時にまだ気持ちが変わっていなかったら、返事をしてもいいですか?』
あの時、確かにそう言ったけれど、まさかこんな日がくるって思わなかったから……。
「……場所を変えてもいい?」
「いいけど、どこに行く?星がたくさん見える展望台?夜景が見える高台の公園?」
「それ、私が特集したプロポーズお勧めスポットで取り上げた場所じゃ……?」
「それくらい期待をしているって事だから」
そう言って燈真君は私の手を取って笑った。
それは、誰かに見せるための笑顔でもなく、私に向けていた偽りの笑顔でもなく……いつか七海と燈真君が二人で撮った時の写真のように心の底からの笑顔だった。
幸せは終わらなかった。
きっとこの幸せはこの先もずっとずっと続いていく。
燈真君と私が同じ方向を見ている限り。
これが、本当のハッピーエンド。
幸せの終わりではなく、幸せで終わる……。