ドリプリは相変わらず、人気度を増し続け、留まる事を知らない。

ファンクラブも退会し、あんなに推していた青柳燈真君の姿を追う事もあれからしなくなった。

でも何の因果なのか、ドリプリメンバーの岩崎真虎(いわさきまとら)君が長野県出身という事で、先月からエッセイを担当してもらう事になった。

真虎君、同じ長野出身で勝手に親近感湧いてたんだけど、まさかこんなところで繋がるとは。

ドリプリを担降りしたのに複雑な気持ちだけど、彼のおかげで情報誌の売れ行きも伸び続けているから、喜ばなくてはいけない。

幸い、私がエッセイの担当ではないのでホッとしている。

一年前、七海のお墓にしがみついて雨の中泣いた時、全てを捨てる決心をした。

すぐに新しいスマホを契約し、全ての人との繋がりを絶った。

元のスマホは七海との思い出を消したくなかったので、連絡先だけ消した。

燈真君には結局、私の口から真相を伝える事ができなかったけれど、私が七海を苦しめて自殺に追いやったのも同然だから、憎悪の対象である事には変わらない。

逃げたと思われても構わない。

見えるところから完全に消えれば、きっと自分の幸せのために生きてくれると思うから。

本当なら自分の命を絶つべきなんだろうけれど、それだけはできなかった。

七海を失った時の、残された人たちの苦しみや悲しみを目の当たりにしたから。

私が生きていく事を燈真君が許さなかったとしても、苦しみながら生きるなければならないんだと思う。

死んで楽になろうだなんて、私には許されない。



「お先に失礼します。お疲れ様です」


仕事を終え、編集部を後にする。

昨日発売の情報誌も売れ行きは好調だし、大きなミスをせずにマイペースに仕事ができている。

私にとって、これ以上の幸せはきっとない。

だから、きっとこれからも……。

会社を出たところで、ガードレールにもたれかかる人の姿が視界に飛び込んできた。

知り合いに似ていると思い、足を止めたところで相手も私に気付いて、ガードレールから立ち上がり、こちらに近づいてくる。


「……やっと見つけた」


私の前に立つと彼はそう言って微笑み、サングラスを外す。

似た人じゃなく、知っている人……青柳燈真君だった。


「な、何で……」

「何でって、真虎がこの情報誌のエッセイを担当し始めたじゃん。冷やかしでエッセイ読んでて別ページ見たら、柚乃ちゃんの名前が書いてあったから、飛んできた」


飛んできた……。