「柚乃ちゃん。昨日発売の情報誌、評判いいってよ。各書店で追加で注文が来てる。増刷になると思うよ」

「ありがとうございます」


編集長からお褒めの言葉をいただき、私は笑顔で返した。

地元に戻ってきてすでに一年が経過した。

一年前、七海の真相が全てわかってからすぐに私は月の光出版社を退職した。

辰巳直也と神崎マリエが起こした事は重大な問題であり、両出版社を巻き込んで大混乱となった。

その引き金を引いたのは私。

辞める事で責任をとれるとは思えないし、綾音先輩をはじめみんなは私のせいではないと言って引き止めてくれた。

だけど、平気な顔で仕事ができるとは到底思えなくて。

上層部にも頭を下げて、急だったけれど退職をした。

実家に戻った時は驚かれたけれど、何も聞かれなかった。

七海が亡くなった事を家族は知っていたし、ショックで東京にいられなくなったと思ったらしい。

地元で再就職先を探して、主に情報誌を扱っている出版社に運良く再就職する事ができた。

東京にいた時のような時間に追われていた時とは違い、緩やかに流れるような時の中で仕事ができている。

東京の出版社で働いていたスキルを活かして企画を練り、長野の魅力を色々な人に印象付けてもらえるように念入りに取材をして、情報誌で発信している。

ありがたい事に毎回好評で、次も頑張ろうという活力をもらえていた。


会社を辞める時、綾音先輩には、結婚式は必ず来て欲しいと言われたけれど、どうしても行けなかった。

結婚を控えていた七海がひどい形で捨てられた事がトラウマになってしまったから。

綾音先輩は残念がっていたけれど、結婚後もバリバリと仕事をこなして、今は副編集長に。

辰巳さんと神崎マリエは社の信用を失墜させたとして、それぞれ訴えられたらしく損害賠償を請求されたらしい。

もちろん二人とも解雇になり、綾音先輩もその後二人がどうしているのかまでは知らないとか。

哀れな末路に、結局誰もが幸せになれなかったのだと、ただ悲しくなるだけだった。

ちなみに、七海の企画泥棒の噂を広げた張本人として瞳は社内で白い目で見られるようになったらしく、耐え切れなくなって会社を辞めたらしい。

地元に帰ってきてから私が先に帰ってきた事を知り、柚乃先輩のせいだとうちに突撃してきたけれど、自業自得だと言ったらそれ以上何も言えなくなり、その後は突撃がない。

ただ、我が家の前でだいぶ喚き散らしてくれたため、ご近所で噂が回り、笹井家は肩身が狭くなったとか。

自分のした事は自分に返ってくる……噂好きの瞳は、身をもってその言葉を証明してみせたのだ。

耐え切れなくなった瞳は地元から姿を消し、その行方は誰も知らない。