もう時間は10時を過ぎている。

立ち寄りそうな店は閉店し始めているから、もしかしたら家に帰ってきているかもしれない。

そう思って、もう一度マンションに戻ってみたけれど、彼女の部屋の電気は消えているようだった。

インターホンを鳴らしてもやはり、応答はない。


「ああ、くそ……っ!」


車に戻り、再び柚乃ちゃんに電話をかけるが、やはり電源が入っていない。

苛立ち、俺はハンドルを殴りつけた。


「……そうだ」


まだ立ち寄っていないところを思い出し、俺はエンジンをかけると車を発進させた。

最後の希望に賭けて、七海のお墓へと急いだ。

真相が明らかになったのなら、柚乃ちゃんはきっと七海に報告をしにいったはず。

七海の実家からこっちへ来る前に寄れば、会えたかもしれないのに、何をやってんだ、俺は……。

墓地の駐車場に着き、車から急いで降りる。

土砂降りの雨だったけれど、そんな事もお構いなしに、七海のお墓に向かって走った。

パシャパシャとはねる水音だけが辺りに響く。

当たり前だけどこんな時間に人の気配は全くない。

雨で視界は悪かったけれど、外灯のおかげで明るくて変な不気味さは感じなかった。


「……柚乃ちゃん?」


七海の墓の前には誰もいなかったけれど、新しい花束がお供えされていた。

おそらく柚乃ちゃんが立ち寄ったのだろう。

息を切らしながら、俺は再びスマホを取り出して柚乃ちゃんに電話をかける。


『おかけになった電話番号は現在使われておりません』


ついさっきまでは電源が入っていないというアナウンスだったのに、俺がここに向かっている間に変わってしまった。

間違いかと思って、もう一度かけてみても、無情にも同じアナウンスが流れた。


「なあ、七海。俺、またお前の時と同じ事、繰り返すのか……?」


七海に問いかけても、答えは返ってこない。

ザーッという雨音に何もかもかき消されてしまう。

大事な人の痕跡を、全て奪っていくように。