田辺と名乗る男はおばさんに案内され、リビングに入ってくる。

七海の仏壇に手を合わせた後、おばさんに向かって土下座をした。


「この度は大変申し訳ございませんでした。発売された雑誌は全て回収し、刷り直して再販売と決まりました。各所でお詫びの記事を掲載させていただきます」

「……え、何の事ですか?」

「……黒澤さんからお聞きになっていませんか?」

「黒澤……って、柚乃ちゃん?」

「はい。夕方、黒澤さんがそちらのパソコンを持って、弊社に来て雑誌の件について全てを話してくださいました。雑誌の企画が同じ編集部の神崎に盗まれてしまっていた事など……」


企画が、盗まれてた……?

タブレットを抱える手に力が入る。


「黒澤さんが七海さんの企画のための取材に同行してくださった事など、動かぬ証拠を突きつけてくださったおかげで、最後は白状しました。更に、神崎は七海さんの高校時代の親友だったようで、同期入社だったのですが、七海さんの婚約者を……」


高校時代の『親友』……って、待てよ。

七海が裏切られたのは、高校時代の親友に?

やっぱり、柚乃ちゃんではなかった……?


「あの、ちょっと待ってください。七海の仕事も婚約者も……その神崎という社員が盗んだって事ですか?!七海は、そんな人たちに傷つけられ、絶望して命を絶ったって事ですか?!」


おばさんのトーンが上がり、困惑した表情を浮かべる。

おじさんがいない今、この状況はまずい。

俺はタブレットを置いて、リビングへと飛び出しおばさんに駆け寄る。


「おばさん、落ち着いて。……すみません、後は僕が話を聞きます」

「えっ、あ、すみません……」


おばさんをリビングから連れ出そうとしたところで、おじさんが帰ってきた。

田辺さんがいた事と、おばさんの顔色が悪い事に気が付いて、驚きの表情を浮かべているが、すぐに対応してくれた。

おばさんを寝室に連れて行ったあと、おじさんはリビングに戻ってくる。


「田辺さん、お騒がせいたしました」

「いえ、こちらこそ、急に来て色々と……申し訳ございません」


おじさんに同席して、改めて田辺さんからおじさんに何が起きていたのかを説明してもらった。

話を聞きながら、おじさんの表情が段々と曇っていく。

何と、七海の婚約者だったあのタブレットの男は、柚乃ちゃんの上司だったようだ。

それを知って、柚乃ちゃんは自分の出版社に戻ったそうだ。


「さっき、黒澤さんと電話で話しましたが、やはり彼女は会社に戻り先輩と一緒に上司を問い詰め、全て終わらせたそうです。重大案件として上層部に話がいくそうだって言っていました」

「え、田辺さん、柚乃ちゃんと話したんですか?!」


さっき電話で話したという田辺さんに、俺は思わず身を乗り出して聞いてしまった。