運がいい事に、この女……柚乃ちゃんはドリプリのファンである上にライブも見に来た事があるらしく、推しが俺。

親友の婚約者を盗るくらいの女なんだから、推しの俺なんかに迫られたら、婚約者から俺に乗り換えるに決まってる。

そんな事を考えながら、徐々に柚乃ちゃんとの距離を詰めていった。

とはいえ、意外と俺になびかず、推しとファンの距離を豪語するだけでなく、俺は七海の親友の青柳さんであって、推しの青柳燈真君とは違う……なんていうよくわからない理論で一定の距離を保つ。

何なんだ、こいつはと思いつつも、気付けば彼女のペースに巻き込まれていた。

離れられなくなるくらい、俺の事を好きになればいい。

そんな風に思いながら過ごしていた毎日だったけれど、段々俺の中に奇妙な感覚が育ち始めた。

復讐心だけで近づき、そこには偽りしかなかった感情が、少しずつ本物へと変わりつつあった。

気のせいだと自分に言い聞かせたけれど、柚乃ちゃんと過ごす日々が、楽しいと感じる俺がいて、柚乃ちゃんを愛おしいと思う自分がいて……。

正直、俺は何をやっているのだと混乱し始めた。

本当に柚乃ちゃんが七海を追い詰めて死に追いやったのか?とまで考えるようになり、決心がぐらつき始めた。

この際、本人からハッキリと聞こうと思って、彼女のマンションで待ち伏せして捕獲し、家に連れてきた。

昼間、おばさんから連絡をもらって、柚乃ちゃんが七海のパソコンを持って、七海の勤めていた出版社に行ったって言うから、何かわかったのだろうと思ったのだけれど、彼女は何も言わなかった。

七海の企画が掲載された雑誌を見て、七海の名前が無かったことに違和感を持っていたから、おそらくその事で出版社に乗り込んだのだろう。

その事も含めて彼女を問い詰め全てを明らかにした上で、柚乃ちゃんに近づいた理由を話し謝罪してから、本当の気持ちを改めて伝えようと考えていた。

柚乃ちゃんの様子は明らかにおかしかった。

聞いても笑顔ではぐらかした。

上手くはぐらかせたと思ったんだろうけれど、嘘をついたってバレバレだよ。

そんなところも可愛いなと思ったのは、本心だった。

俺はスマホを取り出し、柚乃ちゃんに電話をかける。

最初は呼び出していたけれど、電話に出てくれる事はなく、そのうち電源を切ったのか繋がらなくなった。