どの七海も、私に彼氏の事を惚気る時のような、幸せそうな笑顔だった。

タブレットを今すぐ叩き割ってしまいたい衝動に駆られるほど、今は辰巳直也が憎くて憎くて仕方がない。

これ以上、見るに耐えないので画像を閉じる。

画面のアイコンにメモというフォルダーが単独で表示されていて、思わずタップをしてしまった。

企画のメモかと最初は思ったが、私の名前が出てきたので違うようだ。




柚乃が直也と同じ職場だという事を知って、ビックリしたけれど嬉しかった。

でも最近、直也がよく柚乃の名前を口にする。

失敗ばかりしているけれど、いつも一生懸命でそこが可愛く見えて、いつも助けたくなっちゃうって。

そんな事を言われたら、柚乃が私の親友だって言えなくなった。

私、もしかして柚乃に嫉妬してる?

柚乃は直也の名前を言わないけれど、本当は好きだったりする?

考えたくないけれど、考えてしまう。

こんなの柚乃に対して失礼だし迷惑だけど、私の中でどす黒い感情が渦巻いて消えない。

何も知らない柚乃を見てると、こんな醜い私がいる事に罪悪感が生まれてくる。

直也と結婚の話が出ているから、結婚が決まればこの醜い私は消えてくれるかな。

柚乃は祝福してくれるかな。

柚乃にだけは嫌われたくないから、こんな醜い私がいる事を知られたくない。

直也に片想いしているかもしれないからって、燈真を柚乃に押し付けようとしている私がいる。

でも、燈真と柚乃は本当にお似合いだと思うから、将来、お互い結婚出来て家族ぐるみでお付き合いができたらいいなって心から願ってる。

ごめんね、柚乃。




何でも完璧にこなしてしまう七海に、こんな一面があった。

見てはいけない物を見てしまったと、私はメモを閉じた。

七海が私に謝る事なんか何もないのに。

嫉妬なんて、誰だって持ってるよ。

私だって、燈真君と仲が良かった七海に対して、場違いな嫉妬をしたよ。

自分ばかりが醜いだなんて思わないで。

……そんな自分を消したくて、死を選んだのなら、七海はやっぱり私のせいで死んだ。



「柚乃ちゃん、どうしたの?!ずぶ濡れじゃない!」


桐山家に着いた時にはもうすっかり暗くなっていて、出迎えてくれたおばさんに驚かれた。

上がってと言われたけれど、私は首を横に振って持っていたパソコンケースを差し出す。


「すみません、ありがとうございました。お返しします」

「えっ?柚乃ちゃん……」

「タブレット、パスワードはクラシックレモンです。燈真君が来た時に教えてあげてください。失礼します」


おばさんに引き止められるのを振り切って、私は再びタクシーに乗り込んだ。