「神崎さんの事ですから、彼氏も巻き込むと思っていました。自分だけこんな目にあって彼だけ無傷にはしないだろうと。逃げ道を考える時間を与えずに済んだので、こっちも終わりました。私の先輩が辰巳と同期なので、重大案件として上層部にいってくれるそうです」


ひとりの死で、たくさんの人を巻き込み、傷つけ、最後に残った物はやりきれない思いだけ。

自分たちが幸せになりたかったのかもしれないけれど、結局、こんな結末を迎えてしまった。

一体、何がしたかったのだろうか。

私は手帳に挟んであった七海と神崎マリエが写った写真を出し、ビリッと破った。

もう七海の隣に並んでほしくない。


『落ち着いたら、嫁と一緒に桐山さんのご実家に行くつもりです。黒澤さん、本当に申し訳ございませんでした。謝ってもどうにもならないとわかっているのですが、もっと早く雑誌の事を僕が気付いていれば……』

「やめましょう、田辺さん。私だって、七海の苦しみに気付けなかったんです。私も何度謝ったって許されない事をしたんです……」

『……桐山さんはうちに遊びに来ると、親友とどこに行ったとか何を食べたとか、どういう遊びをしたとか、うちの奥さんにいつも楽しそうに話していて、嫁がお勧めのスポットを紹介すると、今度一緒に行ってみますって言ってました。親友って、高校時代の親友だった同期の神崎の事かと思っていたのですが、黒澤さん、あなたの事だったんですね』


田辺さんの言葉に、胸が痛くなる。

親友……果たして本当にそうだったのかな。


『嫁がある時、聞いたんです。桐山さんの中で親友との思い出って何?って。そうしたら、桐山さんは笑って即答しました。クラシックレモンって』

「……っ」


クラシックレモンは七海と私が初めて出会った時に仲良くなったきっかけとなった新発売のソフトキャンディの味だ。

七海の中で、まさかそれが一番の思い出となっていただなんて……。

嬉しいのか悲しいのかよくわからない、複雑な感情で言葉に詰まる。


『黒澤さん。桐山さんはあなたのような親友がいて、幸せだったと思います。気持ちの整理はつかないかと思いますが、どうか桐山さんの分まで幸せに生きてください』

「……ありがとうございます」


私に幸せになる資格があるのだろうか。

お礼を言って通話を終了し、スマホをバックにしまう。

幸せになれるわけがない。


『七海を裏切ったのは、親友の黒澤柚乃。俺はコイツを絶対に許さない』


燈真君のコルクボードに貼ってあったメモに赤ペンで書かれていた。