夏休みに入った。
術師必須科目の「術師実技」で点数が取れない乃彩は、補習を受ける。
霊力は十分にある。霊力の塊である霊玉も作り出せるようになった。だが、その霊玉で攻撃したり、相手の攻撃を防いだりすることはできない。おそらく、「家族」にしか力を使えないという制約がここでも働いているのだ。
一方、「術師教養」の成績はトップだった。つまり、頭でっかちで実践できない術師ということ。
補習ではひたすら霊玉を作り出し、霊力放出を維持する練習を繰り返すのみ。それでも教師は唸る。
「うーん、やっぱり霊力はかなり高いわね」
実技を担当するのは女性教師。
乃彩の周囲には、複数の霊玉がふわふわと浮かんでいる。三十分以上この状態を維持していた。
「これだけの量をこの時間維持できるなんて、相当な霊力よ。でも、ここからが問題。この一つをあの的に当てられる?」
五十メートル先に的がある。
乃彩が霊玉を動かすと、ふわふわと的へ向かうが、当たる前にパンと消えた。
教師は苦笑するしかない。
「本当に攻撃が苦手ね。苦手というか、やる気がないというか」
「申し訳ありません……」
乃彩にもわからない。霊玉を作れても、思うように動かせないのだ。
「あなたが悪いわけじゃないの。なんというか……力が制限されている感じね」
教師は、乃彩の能力が「家族」に限定されていることを知らない。霊力の制御がうまくいかないと捉え、制限されていると表現したのだろう。もし家族を襲う鬼がいれば、このふわふわした霊玉も正確に攻撃できるはずだ。
学園は乃彩を留年させたくない。極端な成績と、春那公爵家の後ろ盾――学園への多額の寄付があるからだ。
「たぶん、心に何か枷があるのね。それを解放しないと、霊力をうまく扱えないと思う。実技は補習と実践で合格にする予定だから、また補習に来てね」
「はい、ありがとうございます」
強い霊力を持ちながら、制御できない。だが、制御できれば乃彩は化けると教師は期待している。
「だから、自分の生きたいように生きればいいのよ」
術師華族の女性は、高等部卒業後、結婚するか、嫁ぎ先や専門学校で花嫁修業をするのが一般的だ。勉強を続けたり、術師として妖魔と戦ったりしたいと思う女性は少ない。だから女性教師も稀だ。
彼女も結婚を勧められるが、実力でそれを跳ね返している。
「さっきも言ったけど、補習に出れば実技の単位は取れるから」
「ありがとうございます」
たとえ成績が「2」でも、単位が取れれば問題ない。
補習を終え、家に帰ろうとすると、正門前に迎えの車が停まっていた。
過保護と言えば聞こえはいいが、家族は乃彩が逃げるのを恐れている。だから行き帰りを監視するのだ。
「お嬢様、お迎えに参りました」
乃彩は小さく頷き、黙って車に乗り込んだ。
術師必須科目の「術師実技」で点数が取れない乃彩は、補習を受ける。
霊力は十分にある。霊力の塊である霊玉も作り出せるようになった。だが、その霊玉で攻撃したり、相手の攻撃を防いだりすることはできない。おそらく、「家族」にしか力を使えないという制約がここでも働いているのだ。
一方、「術師教養」の成績はトップだった。つまり、頭でっかちで実践できない術師ということ。
補習ではひたすら霊玉を作り出し、霊力放出を維持する練習を繰り返すのみ。それでも教師は唸る。
「うーん、やっぱり霊力はかなり高いわね」
実技を担当するのは女性教師。
乃彩の周囲には、複数の霊玉がふわふわと浮かんでいる。三十分以上この状態を維持していた。
「これだけの量をこの時間維持できるなんて、相当な霊力よ。でも、ここからが問題。この一つをあの的に当てられる?」
五十メートル先に的がある。
乃彩が霊玉を動かすと、ふわふわと的へ向かうが、当たる前にパンと消えた。
教師は苦笑するしかない。
「本当に攻撃が苦手ね。苦手というか、やる気がないというか」
「申し訳ありません……」
乃彩にもわからない。霊玉を作れても、思うように動かせないのだ。
「あなたが悪いわけじゃないの。なんというか……力が制限されている感じね」
教師は、乃彩の能力が「家族」に限定されていることを知らない。霊力の制御がうまくいかないと捉え、制限されていると表現したのだろう。もし家族を襲う鬼がいれば、このふわふわした霊玉も正確に攻撃できるはずだ。
学園は乃彩を留年させたくない。極端な成績と、春那公爵家の後ろ盾――学園への多額の寄付があるからだ。
「たぶん、心に何か枷があるのね。それを解放しないと、霊力をうまく扱えないと思う。実技は補習と実践で合格にする予定だから、また補習に来てね」
「はい、ありがとうございます」
強い霊力を持ちながら、制御できない。だが、制御できれば乃彩は化けると教師は期待している。
「だから、自分の生きたいように生きればいいのよ」
術師華族の女性は、高等部卒業後、結婚するか、嫁ぎ先や専門学校で花嫁修業をするのが一般的だ。勉強を続けたり、術師として妖魔と戦ったりしたいと思う女性は少ない。だから女性教師も稀だ。
彼女も結婚を勧められるが、実力でそれを跳ね返している。
「さっきも言ったけど、補習に出れば実技の単位は取れるから」
「ありがとうございます」
たとえ成績が「2」でも、単位が取れれば問題ない。
補習を終え、家に帰ろうとすると、正門前に迎えの車が停まっていた。
過保護と言えば聞こえはいいが、家族は乃彩が逃げるのを恐れている。だから行き帰りを監視するのだ。
「お嬢様、お迎えに参りました」
乃彩は小さく頷き、黙って車に乗り込んだ。



