「その通り。春那家の力は貴重です。特に乃彩の力は、春那家始まって以来のもの。奇跡の力とも呼ばれます。鬼からこの国を守っているのは春那の力であることを忘れないでください。そして、鬼の呪いを受け、情けない姿を見せた術師はどこのどなたですか?」
琳の目が細められ、二人をギロリと睨んだ。
「申し訳ありません。私が悪鬼の討伐に失敗したばかりに……」
徹が慌てて頭を下げる。額に汗が滲む。
「わかればいいのです。わかれば」
琳はニタリと笑い、眼鏡を押し上げた。その仕草には芝居がかった威圧感があった。
「雪月徹さん。あなたは術師として悪鬼討伐に参加し、呪いを含む怪我を負った。治療には高位の霊力が必要だったが、身近にその力を持つ者がいなかった。だから春那家に助けを求めた。違いますか?」
「違いません……」
徹が答えたが、隣の茉依は身体を小さく震わせる。
「乃彩の力は『家族』にしか使えません。だから、雪月徹さん、あなたは乃彩と結婚して家族になった。ただそれだけのことです。その結婚に愛はありましたか?」
「……ありません」
徹は掠れた声で答えた。
乃彩もこの結婚に愛がないことはわかっていた。それでも、はっきりと言われると、心にぽっかりと穴が空いたような気分になる。その穴から、悲しみや悔しさが流れ出ていく。
「つまり、あなた方は乃彩を弄んだわけです」
琳の言葉は鋭く、容赦ない。
「弄ぶだなんて……私たちは、友達の乃彩に助けを求めただけで……」
茉依の声は震えていた。
「茉依さん。友達のよしみなど、この世界では通用しません。雪月さんは冬賀公爵家の分家でしょう? 本来なら本家を頼るべきですが、冬賀公爵すら匙を投げる状態だったから、春那家に泣きついてきたのではありませんか?」
琳が不気味に笑い、請求書を二人の前に滑らせた。
「きっかり支払ってもらいます。これでも安くしたつもりです」
琳の艶やかな唇が弧を描く。
茉依は憎しみのこもった目で乃彩を睨む。
「こんなにお金がかかるなんて、聞いてなかったじゃない」
乃彩は感情のない視線を茉依に向けた。
「乃彩。私たち、友達よね? それとも騙したの?」
茉依の言葉も無理はない。金額があまりに大きい。女子高校生が用意できる額ではない。
だが、乃彩も知らなかった。仕事を受け、報酬を決めるのは琳だ。乃彩の意思は関係ない。ただ、言われた仕事を淡々とこなすだけ。
乃彩は琳と同じ切れ長の目で、茉依を見つめたまま何も言わない。
「騙すとは人聞きが悪い」
茉依の言葉にすかさず反応したのは琳だった。
大きく身を震わせた茉依を、徹が支えるように腰に手を回す。
「最初に申し上げました。乃彩の治癒能力にはそれなりの対価が必要だと。今回は金銭で済んでよかった。場合によっては五感や霊力を失うこともあります。霊力を差し出すなら、術師華族の地位から転落しますが? あなた方の霊力では、大した霊石も作れそうにありませんね」
琳の言葉は容赦なく二人を切りつける。
茉依は唇を噛み、悔しそうに身を震わせていた。
琳の目が細められ、二人をギロリと睨んだ。
「申し訳ありません。私が悪鬼の討伐に失敗したばかりに……」
徹が慌てて頭を下げる。額に汗が滲む。
「わかればいいのです。わかれば」
琳はニタリと笑い、眼鏡を押し上げた。その仕草には芝居がかった威圧感があった。
「雪月徹さん。あなたは術師として悪鬼討伐に参加し、呪いを含む怪我を負った。治療には高位の霊力が必要だったが、身近にその力を持つ者がいなかった。だから春那家に助けを求めた。違いますか?」
「違いません……」
徹が答えたが、隣の茉依は身体を小さく震わせる。
「乃彩の力は『家族』にしか使えません。だから、雪月徹さん、あなたは乃彩と結婚して家族になった。ただそれだけのことです。その結婚に愛はありましたか?」
「……ありません」
徹は掠れた声で答えた。
乃彩もこの結婚に愛がないことはわかっていた。それでも、はっきりと言われると、心にぽっかりと穴が空いたような気分になる。その穴から、悲しみや悔しさが流れ出ていく。
「つまり、あなた方は乃彩を弄んだわけです」
琳の言葉は鋭く、容赦ない。
「弄ぶだなんて……私たちは、友達の乃彩に助けを求めただけで……」
茉依の声は震えていた。
「茉依さん。友達のよしみなど、この世界では通用しません。雪月さんは冬賀公爵家の分家でしょう? 本来なら本家を頼るべきですが、冬賀公爵すら匙を投げる状態だったから、春那家に泣きついてきたのではありませんか?」
琳が不気味に笑い、請求書を二人の前に滑らせた。
「きっかり支払ってもらいます。これでも安くしたつもりです」
琳の艶やかな唇が弧を描く。
茉依は憎しみのこもった目で乃彩を睨む。
「こんなにお金がかかるなんて、聞いてなかったじゃない」
乃彩は感情のない視線を茉依に向けた。
「乃彩。私たち、友達よね? それとも騙したの?」
茉依の言葉も無理はない。金額があまりに大きい。女子高校生が用意できる額ではない。
だが、乃彩も知らなかった。仕事を受け、報酬を決めるのは琳だ。乃彩の意思は関係ない。ただ、言われた仕事を淡々とこなすだけ。
乃彩は琳と同じ切れ長の目で、茉依を見つめたまま何も言わない。
「騙すとは人聞きが悪い」
茉依の言葉にすかさず反応したのは琳だった。
大きく身を震わせた茉依を、徹が支えるように腰に手を回す。
「最初に申し上げました。乃彩の治癒能力にはそれなりの対価が必要だと。今回は金銭で済んでよかった。場合によっては五感や霊力を失うこともあります。霊力を差し出すなら、術師華族の地位から転落しますが? あなた方の霊力では、大した霊石も作れそうにありませんね」
琳の言葉は容赦なく二人を切りつける。
茉依は唇を噛み、悔しそうに身を震わせていた。



