「純君、君はね、私のことなんて追いかけちゃダメよ」
 少し俯いて奈々さんはその先を続けた。
「私のことは南の島の綺麗な思い出にしておいて」
 納得のいかない話だった。
「そんなの嫌です。僕、また、すぐに会いに来ますよ」
 僕の必死の叫びはあっさりと奈々さんにかわされた。
「無駄よ。私たちは今日でお別れ。私ね、八重山を卒業することにしたの。ずっと迷ってたんだけど、純君に会ってはっきりと分かったの。私が生きるべき場所はやっぱりここじゃないって」
「そんな、そんなの悲しすぎますよ」
 僕も奈々さんにとって何者かには成れたとは思っても、悲しみが薄まるものではなかった。
「純君の気持ちには応えてあげられないけど・・・」
 奈々さんは言いかけて、車の後部から三線のケースを取り出すと、それを僕の目の前に掲げて見せた。
「代わりにこれをあげるわ」
「もらえませんよ。大切なものなんでしょう」
 突然の申し出に僕はひどく驚いた。簡単に受け取って良いものとは思えなかった。
「いいのよ。そもそも、もらい物だし。私はもう八重山を卒業するんだから」
 奈々さんは真剣な表情でその後を続けた。