車は、前夜に島の男と対峙した食堂の前をあっさりすり抜けた。外周道路との交差点を右に曲がり、車は一路、港に向かった。
 不意に奈々さんが昨日の奈々さんに戻った。
「約束だからね。帰ったら必ずご両親と担任の先生に相談するのよ。絶対になんとかなるから」
 奈々さんの口調は強かった。
「はい、必ず相談します」
 僕はそう答えるしかなかった。
「すぐは解決しないかも知れないけど、来年度も同じクラスっていうのは絶対ないから、最悪でもあと三ヶ月足らずの辛抱だから頑張るのよ」
「はい、頑張ります」
 奈々さんは更に僕を鼓舞した。
「純君、昨夜は、あんな怖そうな奴に立ち向かえたんだから。本当は強いんだよ。必ず何とかなるわ」
「はい、なんとかやってみます。」
 そう答えた後で、僕は気になっていたことを聞いてみた。
「奈々さんはどうして僕にここまでしてくれたんですか?」
 答えが返ってくるまで少し時間が掛かった。