「なんだ、やっぱり怖いんじゃない」
「勘弁してくださいよ、もう」
 いたずらが過ぎると思った。
「純君、頼りないわね。本当だったら私を守ってくれるくらいじゃないとね」
「あの、こんなことをするために僕をここに連れてきたんですか?」
「まさか。純君に見せたいものがあったのよ。まあ、絶対に見られるという保証はないんだけどね」
 それから、奈々さんは持ってきたレジ袋の中に手を差し入れた。
「じゃあ、水面を良く見ていてね」
 奈々さんが海中に小石を投げ込むと、海中のあちらこちらに小さな光が現れてすぐに消えた。まるで海の中に蛍がいるようだった。
「何ですか?今の?」
 思わず僕は尋ねた。
「夜光虫よ。もう一度やるから、よく見ておいてね」
 奈々さんは改めてレジ袋から小石を取り出すと、それらをまた海に投げ込んだ。同じように小さな光があちこちに現れた。
「夜光虫はね。振動に反応するの。だから、こうやって小石を投げ込んだりすると光るのよ」
 奈々さんが更に小石を放り込むと夜光虫がそれに応えた。
 それから、奈々さんは残りの小石を次々と海中に投げ入れた。その度に淡い光が現れたが、小石が尽きるとそれも絶えた。