西桟橋には昼間も来ていた。西桟橋は対岸の西表島や小浜島の方向にまっすぐに伸びていて夕陽の名所でもあった。日没の時間には多くの人が集まる場所だった。残念ながら、その日は夕方に雲が出てしまい綺麗な日没を見ることは叶わなかった。
 星もない夜の西桟橋は、そこにあることがどうにか見て取れる程度だった。
「ちょっとここで待っててね」
 桟橋の袂にたどり着くと、奈々さんはすぐに先へ進もうとはせずに右手の砂浜に下りていった。それから、浜辺でかがみこむと小石を集めて持ってきたレジ袋の中に放り込んでいった。
一体何をするつもりなのか僕には見当がつかなかった。そもそも、星も出ていないこんな夜に、どうして奈々さんが僕を桟橋に誘ったのか、その理由はまだ聞いていなかった。
「ごめんなさい、お待たせしました」
 奈々さんは戻ってくると桟橋の先の方に歩き始めた。
「じゃあ、桟橋の先まで行きましょう。海に落ちないように気をつけてね」
「はい」
 僕は懐中電灯で足元を照らしながら奈々さんの後に続いた。