やがて夜も更けて、山田夫妻と日野さんが部屋に戻ったタイミングで奈々さんが提案をしてきた。
「ねえ、純君、西桟橋に行ってみない?」
 夕方から雲が出て星も見えないのに、今頃なぜ?と思ったが、せっかくのお誘いを断る理由など何もなかった。
「はい、行きます」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
 奈々さんは立ち上がり、食堂のある建物の裏手から小さなレジ袋を持って戻ってきた。
「暗いから純君も懐中電灯を持ってね」
 奈々さんは談話スペースの棚に置かれた懐中電灯を二つ取り出すと、その一つを僕に差し出した。
「じゃあ、行きましょうか」
 奈々さんに言われて僕は立ち上がり、門を出てゆく奈々さんの後を追った。

 門を出て右手に進み、夜遅くまでやっている食堂を通り過ぎると街灯が途絶えた。それから、周回道路を横切ると闇が更に濃くなった。両側の墓地を通り過ぎるのが少し怖かったが、周回道路の一つ外側の道に出るのにはたいして時間は掛からなかった。
 そこから西桟橋へ下る坂はまるで魔界へ続いている様な気がした。一人では決してこの先には進めないと思った。懐中電灯の明かりを頼りに僕たちは短い坂を下った。