白い海を生まれて初めて見た。真っ白な砂の水底まで見える澄んだ海は正に白い海だった。その信じられないような美しい海の中を奈々さんがゆっくりと歩いてゆく。より上の方まで見えるようになった奈々さんの足に目を奪われて、一度転びそうになった。僕はどうしようもなく十六歳だった。

 やがて、再び水深が浅くなり、僕たちは白い砂の大陸に上陸した。目の前には白い平野が広がっていた。
 奈々さんは左手に見える黒島の方向に歩いていった。海はその方向に向かって潮が引いていっているようだった。そちらの方向だけ、まだ、わずかに水が残る部分があり砂も濡れていた。僕たちは、たまにぶつかる水溜りを横切りながら歩き続けた。そして、とうとう僕たちは白い世界の果てに到着した。
 真冬だというのに波の上を蝶々が飛んでいた。水深が極めて浅い白い海は少しずつ青みを増して左手の黒島の方に続いていた。極めて平らな黒島は空と海の青に挟まれて少し霞んで見えた。
 右手に目を向けると西表、小浜、カヤマ、そして石垣と、八重山の島々がずらりと並んでいた。砂の大陸の延長である浅い海は、西表や、その手前の小浜島まで歩いていけそうに見えた。
 振り向いてみると、左手のコンドイ浜も、右手のカイジ浜も、砂の大陸の遥か彼方だった。小さな人影が見えなくもなかったが、ほとんど無いに等しかった。
 空の青、沖の海の緑、砂の白、目に見える世界の全てが美しかった。そして、その美しいものだけがある世界には僕と奈々さんの二人しかいなかった。