「馬鹿ね。別に怒ってなんていないわよ。純君って、本当に真面目ね。でも真面目すぎると、いつかぷつんと切れるわよ」
 笑えない話だった。
 奈々さんはフラスクから更にスコッチを口に運んだ。もしかしたら、島の男でさえ奈々さんを相手にしたら飲み負けるかもしれないと僕は思った。そして、こんな風にして、奈々さんは言い寄ってくる島の男たちを蹴散らしてしまう魔性の女なのかもしれないという想像が頭をもたげた。

「ねえ、純君も弾いてみる?」
 少しすると、奈々さんが三線を僕の方に向けた。僕は不意を突かれたような気がしてすぐに言葉が出てこなかった。
「純君、軽音楽部でギター弾いてるって言ったよね、だったら、そんなに難しくないと思うよ」
 奈々さんは簡単に言ってのけたが、僕にはまるで自信がなかった。
「そんな、無理ですよ」
 僕が弱音を吐くと奈々さんの表情が少し険しくなった。
「何もしないうちに諦めちゃうの?」
 奈々さんの言葉は真剣味を帯びていた。決して三線のことだけを言っているのではないような気がした。
「じゃあ、やってみます」
「いい心構えじゃない、じゃあ基本的なことだけ教えてあげるわね」