嬉しそうな僕の言葉を聞いて奈々さんの顔もどこか満足げだった。
 僕たちはしばらく黙って扇風機の風に吹かれていた。沈黙は決して不快ではなかった。無理に言葉で沈黙を埋めようと焦ることもなかった。僕はただ奈々さんの傍にいるだけでよかった。

 しばらくしてから、僕たちは自転車でカイジ浜に向かった。奈々さんの自転車の籠には三線のケースが収まり、左肩にはトートバッグが掛っていた。日差しは熱かったが体を通り過ぎてゆく風が気持ち良かった。
 やがて前方の道の果てに、深い緑で覆われた自転車置き場が見えてきた。僕たちはそこに自転車を止めてカイジ浜の方に歩き始めた。
 濃い木々の緑のアーチの向こうに美しい色をした海面が見えた。短い坂を下ると、見たこともないような海がそこにあった。
 海の向こうには、西表島がでんと控えていて、その手前で小浜島が小さくなっていた。西表島から海を隔ててすぐ右側に、無人島のカヤマ島がちょこんと控えていた。海は、青や薄いエメラルドグリーン、水色や紺と、様々な色のグラデーションを描きながらカイジ浜に至っていた。