不意に奈々さんが尋ねた。
「いいえ、見ているだけいいです。なんか料金も高そうな気がするし」
「乗ってみようよ」
 突然、奈々さんが立ち上がった。
「え!」
 あっけに取られている僕に構わずに奈々さんは自転車置き場の方に歩き出した。
「早くおいで。私と一緒なら顔パス。お金はいらないから」
 促されて、僕は奈々さんの後を追った。

 水牛車の乗り場で奈々さんが知り合いに声を掛けると、僕たちは水牛車の前に案内された。後ろの小さな階段から狭い車に乗り込むと、僕たちは前の方に並んで腰を下した。その後に、僕たちに続いて何人かのお客さんが乗り込んできた。最後に御者のおじさんが僕たちよりも前に座ると水牛車はゆっくりと動き始めた。

 水牛車は石垣の間を縫うように緩やかに進んだ。交差点に差し掛かると、御者のおじさんが何もしないのに水牛は大回りをして綺麗に狭い道を曲がってみせた。
 少しすると、御者のおじさんが三線を取り出して「安里屋ユンタ」を歌い始めた。
 聴き慣れてきた歌が耳に優しかった。