僕の後を奈々さんがついてきた。僕はすぐに塔の上の展望スペースのようなところに着いたが、そこもやはり人間一人がやっと立てるぐらいの広さしかなかった。僕は後から上ってきた奈々さんに塔の展望スペースの手すりに押し付けられるような格好になった。
 奈々さんの胸が僕の背中に当たっていた。
 眼下には美しい赤瓦の町並みが広がり、奈々さんは僕の背中側から右手を伸ばしてあれこれと解説をしてくれた。しかし、十六歳の僕は、背中に当たる奈々さんの胸の感触ばかりが気になって、言葉は僕の耳を素通りするばかりだった。

「次はこっちよ」
 なごみの塔の階段の下から南側の道に戻ると、奈々さんは自転車置き場の方に歩き始めた。また自転車に乗るものと思ってついて行ったが、奈々さんの行く先は自転車置き場ではなく、その向かいの小さな店だった。
 一緒に店に入ると、奈々さんは冷蔵庫から飲み物を二つ取り出し僕に持たせた。更に奈々さんは見慣れないお菓子を追加して会計を済ませた。
 店を出るとすぐに、奈々さんは店の前のベンチに腰を下ろした。
「座って。おやつの時間にしましょう」