「奈々さん、もてるんですね」
「島には若い女性が少ないから目立つだけよ」
 そんなやり取りをしながら、僕たちは真っ白な細い道を自転車で進んだ。道の両側には黒い石を積み上げてできた石垣が続いていた。家々の赤瓦の屋根は夏のような日差しを浴びて青い空に映えた。迷路のような竹富の道を奈々さんと二人で自転車を漕ぎながら、僕は八重山に来て初めて旅人になれたような気がした。
 
 集落の中を一通り回った後、僕たちは島の中心部にある公園のような場所にたどり着いた。そこには、えらく急で細い階段のついた小さなコンクリートの塔が建っていた。
「あれが、なごみの塔よ。この島の観光名所の一つ。登ってみましょうね」
 奈々さんは、一旦、塔の前を通り過ぎて近くの自転車置き場に向かった。そこに僕たちは自転車を並べて置き、塔の方に戻った。僕は奈々さんの後について行ったが、塔の台座の部分の階段を上り、いよいよ塔そのものの下まで来ると、先に行くように言われた。
 言われるがまま、僕は階段を上り始めた。階段は人一人がやっと通れるほどの幅しかなく、まるで梯子を上っているようで少し怖かった。