奈々さんは門を出るとすぐに右に曲がった。そして、右手にある駐車場の奥に向かった。僕も後に続いた。車の後ろに貸し出し用の自転車が並んでいた。
「どれでも、好きなものを選んで」
 奈々さんの言葉通りに僕はサドルの高さが高めになっているものを選んだ。自転車を引き、奈々さんの後について宿の前の道に戻った途端に、僕たちは島の若い男に出くわした。
「奈々ちゃん、そいつ誰ね?」
 男は不機嫌そうだった。
「ああ、従兄弟の純君。小さい頃から可愛がっていた子なんだけど、遊びに来てくれたの」
「ああ、純です。奈々さんがいつもお世話になっています」
 僕は咄嗟に口裏を合わせた。男は相変わらず不機嫌そうだった。
「じゃあ、行こうか」
 そう言って自転車を漕ぎだした奈々さんに僕はついていった。

 しばらくすると、奈々さんがクスクスと笑い出した。
「純君、嘘が上手いのね」
「勘弁してくださいよ。冷や汗がでましたよ」
「まあ、この先も従兄弟ってことにしておいてね。そうしないと、色々と面倒なことになると思うから」
 見えはしなかったが、奈々さんは少しズルそうな顔をしていそうな気がした。