「次は純君も歌える歌にしましょうね。だから、今度は純君も一緒に歌ってね。じゃあ、十七ページ」
 奈々さんの言葉に、僕は頬が火照るのを感じた。奈々さんに見とれていたことに気付かれたような気がした。僕は慌てて十七ページを開いた。
 そこに載っていたのは確かに僕も歌える歌だった。奈々さんの歌声に自分の声を重ねることは冒涜以外の何物でもないような気がしたが、みんなで歌ってみると、それはとても楽しかった。
 それから、奈々さんは次々とみんなが歌えそうな歌を選び、僕たちは一緒に歌った。こんな風に楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだと僕は思った。

「さて、みんなで歌うのも良いけど、そろそろ奈々ちゃんのソロの歌と三線をしっかりと聴かせてほしいな」
 頃合を見計らっていたように博孝さんが言い出した。
「俺も、そろそろ聴きたいと思ってたんだ」
 日野さんも同調した。
「じゃあ、リクエストにお答えしてやらせてもらいます」
 奈々さんは糸を巻き直すと次の曲のイントロに入った。それは少し悲しげなメロディーだった。イントロに続く歌の歌詞は沖縄方言ではなく内容は全て理解できた。八重山を離れて十二年になるという望郷の歌だった。東京出身の奈々さんにとって、八重山は異郷の地だったが、歌に込めた思いは何の不自然さも感じさせることなく僕の心に染み渡っていった。僕は一音も聴き逃すまいと、奈々さんの歌と三線に耳を傾けた。