それからしばらくして、夕食の時間がやって来た。畳敷きの細長い食堂には、片側三人掛けくらいのお膳が一つだけあった。旅行シーズンにはもう二つくらいお膳が並べられるようだった。料理は四人分が用意されていた。
その日の僕以外の宿泊客は、山田博隆さん・理恵子さんという年配のご夫妻、そして、若いカメラマンの日野さんだった。彼らはのむら荘の常連で、夕食を食べながら僕に八重山のことを色々と教えてくれた。そんな中、僕は理恵子さんに聞かれた。
「ねえ、純君はどうして、のむら荘を選んだの?」
「ネットの口コミにあった『安らぎ』という言葉に魅かれたんです」
「それは正解だったね。俺は色々な宿に泊まっているけど、ここくらい安らげる所は無いよ」
日野さんが自分の体験を話してくれた。
そんな風にして続く夕食を食べながらの会話は実に楽しいものだった。
「じゃあ、そろそろ片付けましょうか?」
夕食が済むと理恵子さんが声を掛けた。日野さんも僕たち四人の茶碗やお皿を重ね始めた。食器を運ぶのがのむら荘のしきたりのようだった。僕もそれに習った。博孝さんが四人分の食器を戻すために厨房に続く小窓を開けた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
厨房から、宿のご主人の義男さんの声が返ってきた。理恵子さんが用意されていた布巾でテーブルを拭き終わった頃、厨房に続くドアを開けて義男さんが現れた。