それを聞いて、彼は明らかに動揺を見せた。




「……え。え、鷲崎(わしざき)……?」




声の主が誰か確かめるため、彼はゆっくりと振り返る。


その目が俺を捉えた瞬間、背筋が凍りついた。


学校とは違う姿の自分が映り込む。



なのに、彼は俺を確かに「鷲崎」と、そう呼んだ。


目を丸くして、固まった。




「え、なになに〜? 伊澄の知り合い? 顔面偏差値高〜!」




そんな俺たち──いや、主には俺だが──の気なんて知らないままこの場で姉貴だけが呑気な声をあげた。


俺は逡巡する。

この場をどう打開するか。




「これは見なかったことに……は、できねぇよなぁ」




ひとりでボソリと呟く。




「鷹司、休憩いつとれる?」




未だに呆然と固まったままの鷹司にそう問えば、腕時計を確認して「今からでもとれる、けど」と答えた。




「ちょっと話あるからさ。いい?」


「……わかった。ちょっと待ってて」




鷹司は再び俺たちに背を向けると、バックヤードの方へ消えていった。