つばさは俺の手首を掴んだまま、懸命に訴え続ける。
「あいつらが淳平に言ってた内容を聞いて、俺はあいつらの何がよくて一緒にいたんだって自分を殴りたくなった……!」
つばさはそう言うけど、俺にはアイツらの理論は分かった。これまで散々感じてきたことだったから。
「……だって、俺らモブとお前を含むアイツらは人種が違うじゃん。だから……モブが一軍使ってんじゃねえよって思ったんだろ」
ぼそぼそと言った途端、つばさがもう片方の手で俺の肩を鷲掴みにした。……だから痛いんだよ、お前はよ。
「待ってよ、人種ってなに!? 俺は淳平のことをモブだなんて思ったことは一度もないよ!」
俺みたいな面倒くさい奴にどうしてそんな必死になるのかが分からない。さっさと離れりゃよかったのに。だったら友達を自分から切るなんてこともしなくてよかった筈なのに。
「俺はどう見たってモブだろ。パッとしないしフツーだし」
「そんなことない! 俺は淳平のことが滅茶苦茶好きだし、見た目も好みだし!」
「へっ」
瞳を潤ませながら至近距離で好きなんて言われてみろ。相手が同性だってドキドキするのは仕方ない……よな?
カアアッと背中から顔まで一気に火照り、慌てて目を逸らす。ていうか「好み」ってなんだ、「好み」って。俺じゃなかったら勘違いするぞ、マジで。
「……お前な、」
「嘘じゃない……! 信じてくれるまで言い続けるから!」
「よくそういうこと堂々と言えるよな……恥ずかしい奴」
思わずぼやくと、俺の目の前に顔を近付けたつばさが言った。
「好きなものを好きだって言って何がいけないの? 人のことを馬鹿にして嘲笑う奴らなんて、見た目が多少よかろうが中身は醜いと思うよ!」
多少って言ったぞ。こいつ時々ズバッと言う時あるよな。根が素直なんだろうなあ。知ってたけど。
「お前な、アイツらが聞いたら怒るよ? 一軍のプライドあるんだろーし」
「もう縁切ったから怒ろうが関係ないよ! 心が汚い奴は、その内顔に出るってうちの親が言ってた! 俺もそう思う! だから淳平は綺麗だし、淳平の笑顔が好きだ!」
「ぐっ」
こ、こいつ……! 真っ直ぐなのはつばさの美点だけど、友達にこうもどストレートに好意ぶつけるとか、恥ずかしくないのかよ。言われてるこっちが恥ずかしすぎる!
う……嬉しいけどさ。
でも俺は捻くれまくってるから、それでも抵抗する。
「し、信じられるかよ……っ! だって如月さんを庇ったのは事実だろ!? つばさが何とかするからって言ったって本人から聞いたんだぞ!」
「あれはっ」
つばさの必死な顔が、今にも触れそうな距離にきた。こいつさ、距離感バグってるよね……あんま近付くなって、変な気持ちになっちまうだろうが。
「……如月さんは、中学からあんな距離感の子でさ。すぐに抱きついてきたりするから、その……」
それってつばさ限定だろーが。こいつまさか気付いてないの? え、鈍感なの?
何故かつばさは恥ずかしいのか、ソワソワと言いにくそうにしている。ん? 何これ。
「何だよ、はっきり言えよ」
「う……っ」
つばさの顔がみるみる赤くなっていった。面白え。
「その……っ、淳平にあの距離で近付かれたら嫌で……っ」
「なんだ、やっぱり如月さんのことが好きなんじゃ――」
「それはない」
被せ気味に言われた。ええと。掴まれた手首と二の腕に力が込められる。だからさっきから痛いんだけど。
「ないから」
「あ、はい」
目が怖いよ。
こくこくと頷くと、つばさは「はああ……っ」と大きな溜息を吐きながらその場にへなへなと座り込んだ。
「やっと淳平と話せた……っ」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃない! 俺の中では天国から地獄に一気に突き落とされた気分だったんだからな!」
涙目になるなよ。罪悪感で一杯になるだろ。
「……そりゃ済まなかったな」
つばさの主張が正しければ、一軍たちはつばさの意思とは関係なく俺を蹴散らそうとしていたらしい。でも考えてみたら、確かにいつも何か言われるのはつばさがいない時だった。思うに、アイツらはモブにつばさを取られるのが嫌だったんだろうな。だって一軍の中でもつばさは軍を抜いてキラキラしてたし。
あまりにも後光が差してて眩しいから、無意識にいつもつばさを目で追っていた。そうやって教室で何度つばさと目が合ったことか、もう数え切れない。その度につばさがニコッとするから、俺はそれが……嬉しかったんだ。
「もう一度信じてくれない……?」
上目遣いで、懇願するように俺を見上げるつばさ。母さんの言う通り、イケメンの懇願はぐっとくるものがあるかもしれない。――特にそれがつばさだと。
「……二度目はないから」
「淳平! ありがとう!」
分かったから、人のふくらはぎをさするな。くすぐったいだろ。
「それでさ、早速なんだけど……」
「なんだよ」
つばさがまたもや懇願するような顔をした。おい、その顔やめろって。逆らえなくなるから。
「実は俺も花火大会に一緒に行く相手がいなくて」
「……え」
こいつ、もしや俺と拓のやり取りを聞いていたな?
ぶすっとしながら見下ろすと、つばさが手を合わせてきた。……うっ。つばさの懇願には本当に弱いんだよ……!
「お願い、一緒に行こう?」
「う……っ、わ、分かったよ!」
「やったー!」
万歳をするつばさ。俺と花火大会に行くのがそんなに嬉しいの? こいつやっぱりちょっとおかしいんだな。だって俺だよ?
つばさはすっくと立ち上がると、膝をパンパンと払った後、にっこりして言った。
「じゃあ、ブロック解除して」
圧が怖い。
「ええと、その」
「今すぐ。目の前で。できるよね?」
イケメンの笑顔の圧には逆らえない。
俺はこくりと頷くと、スマホを取り出し言われた通りつばさに画面を見せながらつばさへのブロックを解除したのだった。
「あいつらが淳平に言ってた内容を聞いて、俺はあいつらの何がよくて一緒にいたんだって自分を殴りたくなった……!」
つばさはそう言うけど、俺にはアイツらの理論は分かった。これまで散々感じてきたことだったから。
「……だって、俺らモブとお前を含むアイツらは人種が違うじゃん。だから……モブが一軍使ってんじゃねえよって思ったんだろ」
ぼそぼそと言った途端、つばさがもう片方の手で俺の肩を鷲掴みにした。……だから痛いんだよ、お前はよ。
「待ってよ、人種ってなに!? 俺は淳平のことをモブだなんて思ったことは一度もないよ!」
俺みたいな面倒くさい奴にどうしてそんな必死になるのかが分からない。さっさと離れりゃよかったのに。だったら友達を自分から切るなんてこともしなくてよかった筈なのに。
「俺はどう見たってモブだろ。パッとしないしフツーだし」
「そんなことない! 俺は淳平のことが滅茶苦茶好きだし、見た目も好みだし!」
「へっ」
瞳を潤ませながら至近距離で好きなんて言われてみろ。相手が同性だってドキドキするのは仕方ない……よな?
カアアッと背中から顔まで一気に火照り、慌てて目を逸らす。ていうか「好み」ってなんだ、「好み」って。俺じゃなかったら勘違いするぞ、マジで。
「……お前な、」
「嘘じゃない……! 信じてくれるまで言い続けるから!」
「よくそういうこと堂々と言えるよな……恥ずかしい奴」
思わずぼやくと、俺の目の前に顔を近付けたつばさが言った。
「好きなものを好きだって言って何がいけないの? 人のことを馬鹿にして嘲笑う奴らなんて、見た目が多少よかろうが中身は醜いと思うよ!」
多少って言ったぞ。こいつ時々ズバッと言う時あるよな。根が素直なんだろうなあ。知ってたけど。
「お前な、アイツらが聞いたら怒るよ? 一軍のプライドあるんだろーし」
「もう縁切ったから怒ろうが関係ないよ! 心が汚い奴は、その内顔に出るってうちの親が言ってた! 俺もそう思う! だから淳平は綺麗だし、淳平の笑顔が好きだ!」
「ぐっ」
こ、こいつ……! 真っ直ぐなのはつばさの美点だけど、友達にこうもどストレートに好意ぶつけるとか、恥ずかしくないのかよ。言われてるこっちが恥ずかしすぎる!
う……嬉しいけどさ。
でも俺は捻くれまくってるから、それでも抵抗する。
「し、信じられるかよ……っ! だって如月さんを庇ったのは事実だろ!? つばさが何とかするからって言ったって本人から聞いたんだぞ!」
「あれはっ」
つばさの必死な顔が、今にも触れそうな距離にきた。こいつさ、距離感バグってるよね……あんま近付くなって、変な気持ちになっちまうだろうが。
「……如月さんは、中学からあんな距離感の子でさ。すぐに抱きついてきたりするから、その……」
それってつばさ限定だろーが。こいつまさか気付いてないの? え、鈍感なの?
何故かつばさは恥ずかしいのか、ソワソワと言いにくそうにしている。ん? 何これ。
「何だよ、はっきり言えよ」
「う……っ」
つばさの顔がみるみる赤くなっていった。面白え。
「その……っ、淳平にあの距離で近付かれたら嫌で……っ」
「なんだ、やっぱり如月さんのことが好きなんじゃ――」
「それはない」
被せ気味に言われた。ええと。掴まれた手首と二の腕に力が込められる。だからさっきから痛いんだけど。
「ないから」
「あ、はい」
目が怖いよ。
こくこくと頷くと、つばさは「はああ……っ」と大きな溜息を吐きながらその場にへなへなと座り込んだ。
「やっと淳平と話せた……っ」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃない! 俺の中では天国から地獄に一気に突き落とされた気分だったんだからな!」
涙目になるなよ。罪悪感で一杯になるだろ。
「……そりゃ済まなかったな」
つばさの主張が正しければ、一軍たちはつばさの意思とは関係なく俺を蹴散らそうとしていたらしい。でも考えてみたら、確かにいつも何か言われるのはつばさがいない時だった。思うに、アイツらはモブにつばさを取られるのが嫌だったんだろうな。だって一軍の中でもつばさは軍を抜いてキラキラしてたし。
あまりにも後光が差してて眩しいから、無意識にいつもつばさを目で追っていた。そうやって教室で何度つばさと目が合ったことか、もう数え切れない。その度につばさがニコッとするから、俺はそれが……嬉しかったんだ。
「もう一度信じてくれない……?」
上目遣いで、懇願するように俺を見上げるつばさ。母さんの言う通り、イケメンの懇願はぐっとくるものがあるかもしれない。――特にそれがつばさだと。
「……二度目はないから」
「淳平! ありがとう!」
分かったから、人のふくらはぎをさするな。くすぐったいだろ。
「それでさ、早速なんだけど……」
「なんだよ」
つばさがまたもや懇願するような顔をした。おい、その顔やめろって。逆らえなくなるから。
「実は俺も花火大会に一緒に行く相手がいなくて」
「……え」
こいつ、もしや俺と拓のやり取りを聞いていたな?
ぶすっとしながら見下ろすと、つばさが手を合わせてきた。……うっ。つばさの懇願には本当に弱いんだよ……!
「お願い、一緒に行こう?」
「う……っ、わ、分かったよ!」
「やったー!」
万歳をするつばさ。俺と花火大会に行くのがそんなに嬉しいの? こいつやっぱりちょっとおかしいんだな。だって俺だよ?
つばさはすっくと立ち上がると、膝をパンパンと払った後、にっこりして言った。
「じゃあ、ブロック解除して」
圧が怖い。
「ええと、その」
「今すぐ。目の前で。できるよね?」
イケメンの笑顔の圧には逆らえない。
俺はこくりと頷くと、スマホを取り出し言われた通りつばさに画面を見せながらつばさへのブロックを解除したのだった。