「一ノ瀬、昨日、約束忘れてて、本当にごめ___」


 「もういいから。俺との約束を忘れるくらい、大切な人がいるなら言ってくれればいいのに。俺に気を使ってくれたのかも知れないけどな。.......今となってはどうでもいいが」


 「ちょっと待て、なんの話を___」


 「とぼけなくていい。全部、見ていたから。むしろ、俺が今まで振り回してて申し訳なかった」


 一ノ瀬は俺の言葉をすべて切り捨てると、なぜか俺と同じく泣きそうな顔をしながら、去っていった。


 あいつがなにを言っていたのか、わからなかった。もしかしたら、俺のなんらかの”行動”が一ノ瀬にとってはつらいことだったのかもしれない。だったら、話をもう一度、一から聞き直すべきなのかも知れない。だけど、俺には___。


 ___俺には、一ノ瀬の後ろ姿を引き留めて、話を切り出す勇気がなかった。