先生は数学の教材を持っていくと、教室を去っていった。
ドアがガチャリ、と閉まる音を聞いてから、俺はため息をついた。
「危なかったなぁ、本当に間一髪。ありがとな、一ノ瀬___じゃなくて、奏」
「別に。教材が見えたから、たまたま嘘つけただけ。なんにもない教室だったら難しかったよ」
さらっと言っているが、それがすごい。
何気なく時計を確認すると、もう夕方の五時半だった。まだ六月とはいえ、夕方は暗い。
「もう帰ろうぜ、暗くなってきたし。明日もここ集合だろ?」
「ああ。でも、今日は一緒に帰ろう、律夏。もう暗いからな」
「え、でも、お前に迷惑かかるだろ。別にいいよ。部活のときもこのくらいの時間だし」
「心配だから。俺がそうしたいだけだから。律夏は無視して帰ってくれてもいいよ。ついてくだけだから」
送ってもらうと安心はするけど.......絶対迷惑かかるよなぁ。
でも、こういうときって、本当は俺が彼女を送る立場だよな?
だとしたら、彼女と一緒に帰ってるときの話題とかの知識も持っていたほうがいいのか?
「そこまでいうなら。じゃあ、帰ろうぜ」