だけど。今、一ノ瀬に呼ばれても嫌だと感じなかった。むしろ、自分はこの名前でよかった、なんて思えたぐらいだ。


 どうしてこんな心境の変化があったかはわからない。


 「律夏」


 もう一度、俺の名前を嬉しそうに呼んだ一ノ瀬___もとい、奏。


 なんで、そんなに嬉しそうなんだよ。


 偶然なのか、必然なのか........。いつの間にか、一ノ瀬のきれいな顔面が俺のすぐ近くに迫っていた。


 これが世間一般で言う、キス、なのかもしれない。本当に何も考えずに、俺は一ノ瀬にすべてを任せることにした。


 俺が身を預けるように目をつぶった瞬間。


 ガラガラガラっと空き教室のドアが開いて、誰かが入ってきた。


 一ノ瀬がはっとして、離れていく気配がする。俺もゆっくりと目を開けた。


 てか、この体勢、かなりやばくないか!?見られたら誤解を生むような場面だよな.......!


 というか、誤解を生むようなことをしているのは俺達だけど!


 なんて、誤魔化せばいいんだ!?


 「おーい。何してるんだ、お前ら?」