「最悪だ......」


 俺は今までの人生の中で、一番後悔している。


 あのとき、一ノ瀬に言いたいことを言ったはいいものの、もう話す機会はないだろうと呑気にしていたら、なんと、一ノ瀬と同じクラスだったのだ。ほとんど学校に来ないから、同じクラスだということを知らなかった。


 一ノ瀬財閥?だか、御曹司?だか知らないが、とりあえず俺よりも立場が上の人間だということは、斉藤の説明で十分にわかった。


 だからこそ、喧嘩を売るような真似をしてしまったことを、今更後悔しているのだ。斉藤に止められたにも関わらず。


 まあ、一ノ瀬だって、俺のクラスメイトの一人。別に一人程度に嫌われたって痛くもかゆくもない。


 そんな呑気な考えに至った俺は世界史の先生の後ろ姿をぼーっと眺めた。


 「___波!おい、松波!」


 しまった、一ノ瀬に気をとられすぎてほとんど授業を聞いていなかった。


 ましてや、先生に呼ばれていることなんて気づきもしなかった。


 「おい、松波ーしっかり授業聞けよ?ほら、教科書の三行目読め」


 「すみませんっ......えーと、うわっ!?」


 焦りのあまり、教科書を床に落としてしまった。どっと笑いが起きる。