[第一話]
 この世界では17歳で成人と認められる。聖なる神殿で適正ジョブが伝えられ、神からスキルを賜る。貴族令嬢であるライラは17歳を目前にし、他の貴族への挨拶周りなどで忙しい日々を送っていた。ある日、お茶会の帰りに怪しい男たちに連れ去られてしまう。その現場を複数の平民や貴族が見ており、あっという間にライラが男たちに連れ去られたという噂がまわり、「傷物にされた不埒な令嬢」という烙印が押される。命からがらその男たちから逃げ出したライラ。自宅に戻ると、家族から冷たい目で見られる。そして父から「傷物の娘などいらん。なぜ戻ってきた」と言い放たれる。貴族の令嬢は政略結婚をするのがほとんどであり、結婚を行うまで恋愛をする自由は基本的にない。純潔を守るのが貴族令嬢の務めとされているのだ。ライラは身の潔白を訴えるが、聞き入れてもらえず「グリーフィア家の価値を落とす前に自害しろ」とまで言われる。仲良くしていた使用人が庇おうとするが、聞き入れられず。誰の目にも入らないトラッシュ・マウンテンに捨てられることになった。ライラが捨てられたトラッシュ・マウンテンは三国に隣接する山。ゴミが捨てられ、死体が遺棄され、不要なものや後ろめたいものが捨てられている。瘴気も多く、魔物が存在している。どこの国も領地としての権利を主張していない。権利を主張すると、その場所を管理する義務が発生するからだ。どこの国も権利を主張しないほど、トラッシュ・マウンテンはひどい場所だった。
 絶望しながら夜の山を歩くライラ。日付がまわり、17歳を迎える。涙を流していると、淡く光る湖を見つける。そこは聖なる加護がある湖だった。ライラの姿が映ると、湖からライラにジョブとスキルが与えられる。ジョブ『ケアラー』とそれに準じるスキル。ケアラーという聞き慣れない言葉を聞いた瞬間、ライラは前世の記憶を思い出す。前世は現代日本で、介護士として働いていた。熱心に仕事をしすぎたため、過労により突然死している。「転生してもこんな最期だなんてね……どうせ死んでしまうなら、せめて静かな死に場所を探そう」。そう思っていたときに、衰弱している猫を見つける。

[第二話]
 前世で飼っていた猫を思い出し、介抱することに。ケアラーのスキル『手当て』を使用すると、猫は少しずつ元気になっていった。介抱するなかで、少しずつライラの心も落ち着いていく。そんななか、運悪くトラッシュ・マウンテンに現れた大型モンスターと出くわす。ピンチのライラを助けたのは、さっきまで助けた猫だった。人型に変身したアキトは、大型のモンスターを瞬殺する。彼はシャドウキャットの一族。暗殺ギルドに所属していたが、ギルドに裏切られトカゲの尻尾切りにあってしまった。殺されそうになりながら、トラッシュ・マウンテンに逃げてきたらしい。アキトは「介抱してくれたライラを主とする。ライラのために生き、ライラとともにある」と言う。絶望していたライラはその言葉に救われる。

[第三話]
 ごみ捨て山はどの国も権利を主張しない最悪な土地だ。ここに住んでいても文句は言われないと思うが、目立ちたくはない。しかし、現代日本での記憶を思い出したライラにとってこの山の環境は我慢できないものに近かった。「住む環境を整えないと……」そう思っていた矢先、高齢のドワーフがトラッシュ・マウンテンを彷徨っているのを発見する。ドワーフは認知症だったため、手に負えなくなった家族がトラッシュ・マウンテンに置いていったのだ。ライラはドワーフのグランタイトをケアする。関わる中で、鍛冶の仕事をしているとグランタイトがしっかりしていることに気づく。そして、家事や建築の仕事を手伝ってもらうことに。すると、グランタイトは徐々にしっかりと、いきいきしてくる。(ときどきぼけてしまうが、仕事は完璧にやる。)ライラは介護士時代の「手続き記憶」の知識などを思い出し、グランタイトとの関わりのなかで活かしていく。そして立派な家ができた。かくして、捨てられた三人は、ゴミ山と呼ばれるトラッシュ・マウンテンでの生活を始めるのであった。グランタイトは家が完成してしまったことを誇りに思うと同時に、寂しくも感じていた。ライラは言う。
「足りないところを補い合う、捨てられた私たちだからこそじゃありませんか。私たち、一緒に生きていきましょう」
 そして、トラッシュ・マウンテンでの暮らしが始まる。いずれ大きな町となり、貴族や国との関係に巻き込まれていくことをライラは想像もしていなかった。

[第四話]
 トラッシュ・マウンテンに隣接する国のひとつ・ゴルドリア。ライラはその商人がゴミ捨て場で埋もれ、ケガをしているのを発見する。商人に応急処置を行い、手当てのスキルを使ったライラ。トラッシュ・マウンテンから戻った商人は、雇い主であるガノッシュに報告する。ライラの存在とその能力の稀有さに気づいたガノッシュは、ライラに礼を言いに行くことに。突然の訪問者に驚くライラを、アキトは守ろうとする。ガノッシュの話を聞いて、信用に足る人物だとライラは判断する。この山で採れたものをおろすかわりに、ガノッシュに山では手に入らないものを買い付けてもらうことに。(身分が証明できないので、ライラがゴルドリアに向かうという行動は現在できない)。ライアの手当ての力を魔石に込められないか?とガノッシュは言う。やってみると成功。ほんのり温かみをもつネックレスができた。すぐに効果は感じられなかったガノッシュだが、三日後に血相を変えてやってくる。「この前作ったやつ!できるだけたくさん作れないか!?」聞けば、超効果のある磁気ネックレスの様な魔道具になっていたらしい。若い頃から悩んでいた肩こりが嘘のように治ったそうだ。「腕のいいヒーラーでもこんなことはできない!」と興奮するガノッシュ。ライラは貴族社会で育ち、平民や商人の世界にはあまり詳しくなかった。ヒーラーの下位互換だと思っていたスキルの凄さを自覚していなかったのだった。