午後3時になった。
 高齢女性は、甘いアイスドリンクを購入して、自分の目の前の席に置く。
 彼女が購入したのは、最初の女性とは別の種類の季節限定フレーバーだ。

 彼女は、自分のカップの中身がとっくに空になっていたのに、そのことには気づいていないかのように再び窓の外に視線を向けた。
 僕は、その瞬間を見計らって彼女の席に近づいていく。

「失礼します。空いているカップをお下げしますね」
 もしかしたら通常このカフェではこういったサービスはしていないのかもしれないけど、僕は彼女にそう声をかける。

 僕の声かけに反応しないほど窓の外を熱心に見つめる高齢女性に、「お孫さんですか?」とさらに声をかけた。

 彼女はその声かけにビクッと肩を震わせ、恐る恐る側に立っていた僕の顔を見上げ、僕の着ていたカフェ店員の制服を見てほっと一息つき、表情を緩めながら再び視線だけ窓の外に戻した。
「そうなの。本当はみんな直接会いたいんだけどねぇ、約束だからできないの」
「そうでしたか。お辛いですね」
 僕が応えると、彼女はふいにぽろりと涙を零した。
「もしかしたら、私が息子の育て方を間違えてしまったせいなのかもしれないわ・・・」
 そう呟いた彼女は俯き、声が震えていた。
 僕は反対側の席に座ってもいいか尋ね、彼女が頷いたのを確認してから椅子に腰かける。同じくカフェの制服を着た枕崎さんが僕の側を行ったり来たりしながらこちらを伺っている。

 そして、彼女がすべてを話し始めたのを、僕たちはただ黙って聞いていた。