僕は兄によく似ていると言われる。
 とは言っても、似ているのは顔だけだ。

 休日にいつもは行かない全国展開しているチェーン店のカフェへたまたま入ったら、注文をする前にレジ担当の女性店員に話しかけられた。
「あら、あなた・・・もしかして相楽君の弟だったりする?」
「あ、はい。そうですが・・・」
 つい正直に答えてしまった。
 こういうときはろくなことがないのが分かりきっていたのに、うっかり油断した。
 優秀な兄である総哉(そうや)とは周囲から比較されて育ったので、僕は劣等感にまみれている。
「お兄さんに顔そっくりね」
「顔だけですけどね」
 聞き慣れた言葉と吐き慣れた言葉。
 何も感じないし、何も思わない。

 まるで何も聞かなかったかのように、僕は女性店員に注文を伝えた。
 僕の態度に呼応するように、その店員もチェーン店のマニュアル対応に戻る。

 ドリンクを受け取って、空いている席に座った。
 どっと疲れる。
 疲弊したメンタルに甘めのアイスカフェラテが沁みた。

 窓辺に並んだおひとり様用のカウンターでぼーっとしながらカフェラテを飲んでいると、先ほどの女性店員が僕のところにやってきた。
「さっきはいきなり話しかけてごめんね!」
 顔の前で両手を合わせて謝るジェスチャーをされる。
「別にいいですよ。慣れてますし」
 努めて気にしていない雰囲気を出した。
 
「これ、お詫びの品。受け取って!」
 店員がこちらに向かって何かをずいっと差し出したので、思わず受け取る。
「私がこの店で一番好きなスイーツなの。よかったら食べてみて」
「・・・奇遇です。これ、僕も好きです」
 僕の手の中にはチョコチャンククッキーがあった。クッキー生地がしっとりしているのに、ブロック状のチョコの歯ごたえがしっかりしていて美味しいのだ。
「わぁ、そうなんだ!私たち気が合うね」
 彼女がきらりと笑ったので、僕はこの人の話を俄然聞く気になった。笑顔は嘘をつかない。
「それで、僕に何か御用ですか?」