「できたよ」
里菜が呼びにきて、僕はようやく起き上がった。一人の時は朝ごはんなんか食べないで、昼まで惰眠を貪っている僕だけれど、里菜はどんな時も三食しっかり食べないと気が済まないらしい。
以前、里菜が買ってきた食パン専門店のパンを食べて以来、スーパーなどに売っている市販のものを食べるのを、敬遠するようになってしまった僕のために、里菜が用意してくれたパンがこんがりと焼けている。ただし、僕の分は、とても分厚くカットされていて、冷静にそれを見ると、滑稽だ。ワンプレートにその分厚いトーストが二枚(多分、合わせて一斤)と、ハムエッグ、それにほうれん草のソテーがのっている。里菜の前にも同じものがあるが、トーストは僕の分よりも随分と薄い。
「いただきます」
僕が大口を開けて、マーガリンがたっぷり塗られたトーストを齧るのを見て、里菜も箸を手にとった。
「なあ、昨日のことだけど」と、僕は相良の話を蒸し返した。折角の休みだというのに、専らの話題は仕事関係のことばかりだ。僕達は社会人になると、人生の大半を仕事に費やされるのだ。それも、仕方ないのかもしれない。
「そこまでされて、相良はどうして黙ってるんだろう。僕なら、すぐに他の人に助けを求めるけど」
「アキトなら、ね」
里菜は、ほうれん草を箸でつつきながら、意味ありげな口調で言った。お前がそうだとしても、他の人も同じとは限らないと、言葉にはしなかったが、彼女はきっと、そう言いたかったのだろう。
「周りに迷惑をかけたくないから、自分さえ我慢していればいいって思っちゃうのよ。でも、そういう人って、全然我慢できていないものよ。ある日突然、周りが想像もしていなかったことをやらかして、立場は余計に悪くなっちゃったりするの。それに相良くんは明るい子だけど、仕事は真面目にこなすから、責任感も人一倍強くて、どんどん自分を追い込んでいっちゃうタイプかも。自分では気付かないうちに、ね。」
里菜の話しぶりは、まるで相良のことを熟知しているかのようだった。僕よりも社歴は長いから、過去にも相良と同じようなタイプの社員がいたのかもしれない。
「折角二人の休みが重なったのに、アキトは相良くんのことばかり考えてるのね」
「……ごめん」
不意に気まずくなって、僕は自分の太腿に視線を落とした。
「まあ、困ってるかもしれない仲間を放っておけないくらい優しい男だってことよね」
顔をあげると、里菜は苦笑していた。
「そんなアキトが私は好きよ」
多分、僕の顔は真っ赤になっていただろう。今日一日が無事に終わりそうで、良かった。
里菜が呼びにきて、僕はようやく起き上がった。一人の時は朝ごはんなんか食べないで、昼まで惰眠を貪っている僕だけれど、里菜はどんな時も三食しっかり食べないと気が済まないらしい。
以前、里菜が買ってきた食パン専門店のパンを食べて以来、スーパーなどに売っている市販のものを食べるのを、敬遠するようになってしまった僕のために、里菜が用意してくれたパンがこんがりと焼けている。ただし、僕の分は、とても分厚くカットされていて、冷静にそれを見ると、滑稽だ。ワンプレートにその分厚いトーストが二枚(多分、合わせて一斤)と、ハムエッグ、それにほうれん草のソテーがのっている。里菜の前にも同じものがあるが、トーストは僕の分よりも随分と薄い。
「いただきます」
僕が大口を開けて、マーガリンがたっぷり塗られたトーストを齧るのを見て、里菜も箸を手にとった。
「なあ、昨日のことだけど」と、僕は相良の話を蒸し返した。折角の休みだというのに、専らの話題は仕事関係のことばかりだ。僕達は社会人になると、人生の大半を仕事に費やされるのだ。それも、仕方ないのかもしれない。
「そこまでされて、相良はどうして黙ってるんだろう。僕なら、すぐに他の人に助けを求めるけど」
「アキトなら、ね」
里菜は、ほうれん草を箸でつつきながら、意味ありげな口調で言った。お前がそうだとしても、他の人も同じとは限らないと、言葉にはしなかったが、彼女はきっと、そう言いたかったのだろう。
「周りに迷惑をかけたくないから、自分さえ我慢していればいいって思っちゃうのよ。でも、そういう人って、全然我慢できていないものよ。ある日突然、周りが想像もしていなかったことをやらかして、立場は余計に悪くなっちゃったりするの。それに相良くんは明るい子だけど、仕事は真面目にこなすから、責任感も人一倍強くて、どんどん自分を追い込んでいっちゃうタイプかも。自分では気付かないうちに、ね。」
里菜の話しぶりは、まるで相良のことを熟知しているかのようだった。僕よりも社歴は長いから、過去にも相良と同じようなタイプの社員がいたのかもしれない。
「折角二人の休みが重なったのに、アキトは相良くんのことばかり考えてるのね」
「……ごめん」
不意に気まずくなって、僕は自分の太腿に視線を落とした。
「まあ、困ってるかもしれない仲間を放っておけないくらい優しい男だってことよね」
顔をあげると、里菜は苦笑していた。
「そんなアキトが私は好きよ」
多分、僕の顔は真っ赤になっていただろう。今日一日が無事に終わりそうで、良かった。