社内と世間を同時に騒がせた、カラー運輸創業以来の大事件ともとれる例の殺人事件の容疑者の判決と、神田川主任の処遇が言い渡されたのは、奇しくも同じ日だった。前者は懲役七年の実刑判決、後者は主任降格という結果に終わった。程度の差はあれ、どちらも当事者の人生を狂わせた結果であることは間違いない。
 殺人事件の容疑者は、「衝動にまかせて、とりかえしのつかないことをしてしまった。これからの一生を賭けて、彼への償いを行う」と猛省の弁を口にしていたらしい。一方で神田川は、「いっときの感情にまかせて、相良くんにひどい仕打ちをしてしまった」と、自分の過ちを認めているという。
 似ている……と思った。相良だって、神田川の仕打ちによって命を絶っていた可能性だってあるのだ。
後で悔やむから後悔というんだろうけれど、悔やんだところでどうしようもないこともある。大人になればこそ、自分の行動に責任をもつべきだ。
 自分の行動を悔やんだところで、もうどうにもならないことだってあるのだから。
 噂によると神田川は、自宅待機のまま退職するらしい。自分の過ちをそのままにしておいて、相良に頭を下げないまま逃げるのか、と思った。
 思ったところで、僕にはどうすることもできない。神田川と僕が関わることは、これから先はないからだ。
——どんな出会いでも、そこにはお互いにしかわからないえにしがあるの。
 久城さんに言われた言葉が、頭の中を流れていく。僕と神田川のあいだにもつながりがあって、会うべくして出会った関係だったのなら、最後はなんのわだかまりもなく別れたいとも思うが、相手はそれを望んでいない。
 彼は、自分がはたらいた悪事を露見させたのは誰か、相当に訝しんでいるだろう。僕が『相良のお気に入り』だと認識されているのなら、一番に疑われても仕方がない。疑うもなにも、管理職は僕に事情を聞きに来たのだから。
 神田川が、憶測だけで逆恨みをして、報復をしにくるような奴かどうかはわからない。ただ何もせずに黙って去るのなら、相良のためにも他の社員たちのためにも、これ以上の波風を立てずに消え去ってほしいものだ。