「アキトさん!」
日替わり定食の唐揚げを二つまとめて口に詰め込んでいる時、背後から呼ばれた。
「お疲れっす、隣いいっすか」
声の主は、僕の返事も待たず、僕の隣に座る。同じ班の後輩、相良洸平だった。彼は椅子に座るやいなや、茶碗にかき氷のように盛った米に箸を突っ込んで、口の中に放り込んだ。相良は、僕よりも小柄な青年だ。学生時代は野球をやっていたらしく、ポジションはショートだったらしい。犬のように人懐っこい性格をしていて、なぜか直属の上司ではない僕を慕ってくれている。今年の新卒枠として入社した彼を最初に教えたのが僕だったからだろうか。ついこの間までは、制服の短パンを履いて、小麦色の足をさらけ出していたというのに、今日は長ズボンを履いている。洗濯が間に合わなかったのだろうか。
「アキトさんがこの時間に、ここにいるってことは、昼からはヨユーってことっすね」
「どういう意味だよ」
相良は、僕の問いには答えず、僕と同じ唐揚げを頬張った。
「ほら、アキトさんはなんかいつもヨユーなさそうなんで」
ズズズっと大きな音を立てて、相良は唐揚げを味噌汁で流し込む。あまりにも図星なもので、僕は何も言い返せなかった。
「でもおれも人のこと言えねーっす。軽四ドライバーなのに、毎日ヒイヒイ言いながら配達してるし。トラックのドライバーみたいに、配達も集荷も営業も……なんて考えただけで気が滅入ります」
そう言った相良の視線はどこか遠い場所を見ていた。新卒の社員として、シバイヌに入ってきた相良は、そろそろ入社して四ヶ月ほどになる。ここに入社した社員のほとんどは、最初は配達員として、誰か先輩のドライバーの横について、配達や集荷など、基本的な業務を習う。そして、車の運転の研修をみっちりと受けた後、実際に自分の担当コースと車両を当てがわれ、今度は先輩ドライバーが横乗りをして、実際に集配をしながら独り立ちを目指すのだ。新人が入社してから独り立ちするまでには、大体二ヶ月程度かかる。相良は独り立ちをして、ようやく二ヶ月が経過したということだが、まだ彼の名札には彼が新人ドライバーであることを示す、若葉マークがついている。このマークをつけている新人には、営業所の先輩たちが一丸となって、気にかけてあげなければならないのだ。
「おれ、やっぱ向いてないのかなあ」
カチャンと音を立てて、相良が持っていた箸がお盆の上に落ちる。僕は思わず、相良の背中に手を触れていた。汗が染み込んだポロシャツの湿った感触が、少し気持ち悪い。それでも僕は、この二十歳そこそこの後輩を慰めてやらねばならない衝動にかられていた。
「大丈夫だよ。僕も、新人の頃は毎日必死だった。あ、今もだけど。相良はよくやってると思うよ。先輩らの手を借りず、なるべく一人で頑張ってるらしいじゃん。それって中々すごいと思うよ」
「そうっすかね……だって、皆さん忙しそうですし、おれのせいで皆さんに負担かけたくないですし」
「えらいよ」
相良は僕の言葉にフッと笑って「あざっす」と言うと、再び箸を持って、残りの飯を書き込んでいった。
月並みな会話が、相良の心情にどんな影響を受けたのかはわからないが、彼は食事を終えると嬉しそうに「久しぶりに話せて楽しかったっす」と言い残し、そそくさと現場に戻っていった。僕も食堂を後にして、午後の配達へと出発する。僕なんかの言葉で、相良の気が少しでも晴れたなら、僕だって嬉しいことだ。
日替わり定食の唐揚げを二つまとめて口に詰め込んでいる時、背後から呼ばれた。
「お疲れっす、隣いいっすか」
声の主は、僕の返事も待たず、僕の隣に座る。同じ班の後輩、相良洸平だった。彼は椅子に座るやいなや、茶碗にかき氷のように盛った米に箸を突っ込んで、口の中に放り込んだ。相良は、僕よりも小柄な青年だ。学生時代は野球をやっていたらしく、ポジションはショートだったらしい。犬のように人懐っこい性格をしていて、なぜか直属の上司ではない僕を慕ってくれている。今年の新卒枠として入社した彼を最初に教えたのが僕だったからだろうか。ついこの間までは、制服の短パンを履いて、小麦色の足をさらけ出していたというのに、今日は長ズボンを履いている。洗濯が間に合わなかったのだろうか。
「アキトさんがこの時間に、ここにいるってことは、昼からはヨユーってことっすね」
「どういう意味だよ」
相良は、僕の問いには答えず、僕と同じ唐揚げを頬張った。
「ほら、アキトさんはなんかいつもヨユーなさそうなんで」
ズズズっと大きな音を立てて、相良は唐揚げを味噌汁で流し込む。あまりにも図星なもので、僕は何も言い返せなかった。
「でもおれも人のこと言えねーっす。軽四ドライバーなのに、毎日ヒイヒイ言いながら配達してるし。トラックのドライバーみたいに、配達も集荷も営業も……なんて考えただけで気が滅入ります」
そう言った相良の視線はどこか遠い場所を見ていた。新卒の社員として、シバイヌに入ってきた相良は、そろそろ入社して四ヶ月ほどになる。ここに入社した社員のほとんどは、最初は配達員として、誰か先輩のドライバーの横について、配達や集荷など、基本的な業務を習う。そして、車の運転の研修をみっちりと受けた後、実際に自分の担当コースと車両を当てがわれ、今度は先輩ドライバーが横乗りをして、実際に集配をしながら独り立ちを目指すのだ。新人が入社してから独り立ちするまでには、大体二ヶ月程度かかる。相良は独り立ちをして、ようやく二ヶ月が経過したということだが、まだ彼の名札には彼が新人ドライバーであることを示す、若葉マークがついている。このマークをつけている新人には、営業所の先輩たちが一丸となって、気にかけてあげなければならないのだ。
「おれ、やっぱ向いてないのかなあ」
カチャンと音を立てて、相良が持っていた箸がお盆の上に落ちる。僕は思わず、相良の背中に手を触れていた。汗が染み込んだポロシャツの湿った感触が、少し気持ち悪い。それでも僕は、この二十歳そこそこの後輩を慰めてやらねばならない衝動にかられていた。
「大丈夫だよ。僕も、新人の頃は毎日必死だった。あ、今もだけど。相良はよくやってると思うよ。先輩らの手を借りず、なるべく一人で頑張ってるらしいじゃん。それって中々すごいと思うよ」
「そうっすかね……だって、皆さん忙しそうですし、おれのせいで皆さんに負担かけたくないですし」
「えらいよ」
相良は僕の言葉にフッと笑って「あざっす」と言うと、再び箸を持って、残りの飯を書き込んでいった。
月並みな会話が、相良の心情にどんな影響を受けたのかはわからないが、彼は食事を終えると嬉しそうに「久しぶりに話せて楽しかったっす」と言い残し、そそくさと現場に戻っていった。僕も食堂を後にして、午後の配達へと出発する。僕なんかの言葉で、相良の気が少しでも晴れたなら、僕だって嬉しいことだ。