結局その後、何か結論が出たわけでもなく、僕と田曽井は解放された。相良と神田川の処遇については、僕たちの知らないところで事が進んでいくのだろう。いや、もしかしたら何も進まないかもしれない。どんな結果になろうとも、僕たちが口を挟むことは、金輪際出来なさそうだ。経過を伺うことはあったとしても。

「僕、相良の家に行ってみるよ」
 田曽井にそう告げたのは、営業所の従業員出入口をくぐった時のことだった。空調の効いている館内と変わって、夏の夜のじめじめとした熱気が、肌にまとわりついてくる境目の場所だ。僕の体は何故か熱を孕んでいて、背中がじんわりと湿っぽく、シャツが皮膚にまとわりついていた。
 明日は休みだからさ。田曽井の返事も待たずに、僕は駆け出して、従業員駐車場に向かい、自分の車に乗り込んだ。
 相良の家は知っている。この間、清志や相良と休日を過ごしたその日、僕は彼を自宅まで送り届けたからだ。あの時はまだ、相良がこうなるだなんて、微塵も思っていなかった。呑気に構えていたのは、僕だけだったのかもしれない。あの時、口軽く、冗談めかして神田川に関する悪態をついていたその水面下で、彼は僕が予想していたよりも深い傷を、心に負っていたのかもしれない。
 ラジオにしていたカーステレオから、耳馴染みのある曲がかかる。僕がまだ幼い頃に流行っていた曲だ。好きな人が家に来るからといって、夜通し自分の部屋の片付けをしながら、その人のことを想ったりする主人公を唄ったものだ。
 僕はそのメロディーを口ずさみながら、車を走らせた。軽快なリズムに身を委ねる。これから起こりうるかもしれない、事態の重さから目を逸らそうとして……。