「ふうん、良かったじゃない。相良くんもやられてるだけじゃなかったのね」
 里菜が僕の背中の上に乗ったまま、感心した様子で言った。家に帰ると里菜が出迎えてくれたのだ。合鍵を使って僕の家に入っていたようだ。随分と待ちくたびれていたようで、手持ち無沙汰となっていた彼女は、僕が日課としている筋トレの、プランクをこなしている時に、ふざけて背中に乗ってきたのだ。僕はフーッと息を吐き、時間が流れるのを待った。胸筋や腹筋がぎゅっと収縮し、身体が地に着くまいとぷるぷる震えている。汗が床に流れ落ちて、小さな水溜まりができていた。
「相良も、ちゃんと、自分の、身を守るために、いろいろ、考えてて、良かった」
 女とはいえ、いつもより大人の人間一人分の負荷が上半身にかかっているのだ。一句一句、言葉を絞り出すように、話す。床に着けている腕が痺れてきて、頭がぼうっとなってきた頃、セットしたスマホのタイマーが鳴り、それと同時に僕は床に平伏した。
「お疲れ」
 人を乗せての三分間のプランクは、拷問に近い。僕は荒い呼吸がしばらく止まらず、うつ伏せのまま動けないでいた。
「やば、死ぬかと思った」
「そりゃあ、私を乗せて十分もやってたらそうなるわよ」
 里菜は呆れたようにそう言ったが、僕が頼んだわけではない。彼女が勝手に上に乗ってきたのだ。僕は起き上がって「シャワー浴びてくる」と言い残し、リビングを後にした。